遡行軍のスパイの話 (ページ34)

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34話ページ34

バタバタと足音が聞こえる。
皆、騒ぎの場に向かっているのだろう。
私も辺りを警戒しながら足を進めた。

しかし、最悪のことに騒ぎの場が必ず通らなければならない廊下に面していた。
思わず心の中で舌打ちをするが現状が変わるわけではない。
私は曲がり角から顔を覗かせて
どうしたもんかと、刀剣達が集まる騒ぎの場を伺っていた。

「あれ？」

「………‼」

真後ろから声が聞こえてビクッと身体が跳ねる。
振り向くとどうしたの？と、不思議そうな顔を浮かべる燭台切さんが立っていた。

「えっと、その…。」

まずい。見つかった。

背中から汗が噴き出て、頭をなんとかこの状況をやり過ごそうと急速に働かせる。

騒ぎが気になってと最もらしい理由を言おうと口を開いた時、大きな声が響き渡った。

「弟達がこんなに苦しんでいるというのに！」

思わずそちらに視線を向ける。
そう叫んだのは一期さんで仲間の刀剣達が必死に止めていた。
彼の身体に傷はない。つまり、明日の演練のメンバーということだ。

「こんな地獄が続くなら堕ちたほうが」

「落ち着け！一期！」
鶴丸さんもなだめるのに加わっていた。

「燭台切さん…。あれは」

あの彼があんなに取り乱すなんて。
燭台切さんは辛そうな表情で口を開いた。

「…今日、出陣で短刀が沢山折れたんだ。
だけど、明日は演練だから一期君は帰って来てすぐに手入れされた。
それが…多分…」

傷だらけの弟達の中、兄だけは無傷。
…彼にとっては地獄だろう。

「ここまで来ると、もう堕ちた方が良いのかもしれないと、僕も思うよ」

彼等の心はもう折れかけていた。

必死に止めようとしている刀剣もいるが
中には黙って俯いている方達もいる。

堕ちたほうが良い。

燭台切さんのその言葉がやけに私の頭の中に響いた。