恋焦がれる思いは行き場を探す【緑谷出久】【僕のヒーローアカデミア】 (ページ49)

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頑張れって感じの出久ページ49

「綺麗…」

　夜風が優しく私の体に当たると、その冷たさは気持ちよく、夜景がとても綺麗に私の眼に映った。

　色とりどりの光が夜街を照らし、まるで別世界にきた感覚だ。

「寒くない?」

「平気」

　くるりと一回転周ると、心が楽になった。

　寒さはないといえば嘘になるが、寒さよりも気持ちよさが上回っているため、上着は正直羽織りたくない。

　屋上の柵に手を置き、少しだけ体を前のめりにすると、先ほどよりも一層明るい街並みが見えた。

　こんな世界に生きているんだなぁ…私。

　下に降りてみればいいことなんて少ししかなくて、綺麗なものより汚いものが目立っている世界なのに、こうして一歩外に出てみれば、こんなにも違って見える。本当に、不思議。

「あの!!結婚を前提に僕と付き合ってもらえますか?」

　後ろから、大きすぎず小さすぎない適度な声量で、彼は誰かに、私に言った。

「っ!」

　柵から手を離し、くるりと体を反転させると、ふわりと抱きしめられた。

　彼のいつもとは違った香りが私の鼻をくすぐり、彼のくるくるした髪の毛が頬に当たってくすぐったい。

「おかしなことを言うなぁ…」

　私は彼を抱きしめ返すと、彼が私を抱きしめている力よりも、強く彼を抱きしめる。

「結婚なんか前提にしたところで、今の私たちの関係は変わらない。私は貴方が大好きで、そんでもってずっと一緒に居たいとずっと前から思っている。
　だから、貴方は今のままでいてください。
　結婚を前提とか、変な意識とか無理しなくていいから、デクらしく、私の傍にいてくれますか?」

「デクらしくって…」

「お茶子ちゃんの言葉を借りると、頑張れって感じのデクかな。
　私は貴方を幸せにできるよう頑張ります。だから、いずく君もわたしを幸せにできるよう、頑張ってくれますか?」

「もちろん…だよ。イエス以外の返答はないに決まってる」

　歩幅一つ分。私たちは距離をとった。

　そうして、お互いの顔を見つめ合う。

　彼は私を眼に。私は彼を眼に。決して逸らさないように。見失わないように。

「大好きです、出久」

「愛してます。A」

　そして、この繋いだ手が決して離れないように。強く、強く握る。

「ところで、ずっと言いたかったんだけど」

「え!?この雰囲気の中で!?」

「私ずっと貴方に恋焦がれてて、やっぱり私出久が好きだなぁって再度確認した」

「急に…照れるよ…」

「ふふっ」

　ふわりと、夜風が火照ったふたりの頬を冷やした。