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自分の殻に閉じこもっているゼロの背中が、酷く小さく見える。
前に、諸伏の奴が言っていた。「ゼロを強くしてるのは間違いなくAちゃんの存在だよ」と。
あんなにも気丈に振る舞っていたこいつでも、ここまで弱ってしまうものなのか。改めて身内の死というものを考えさせられて、息が詰まる。俺がこいつにかけてやれる言葉は、もうない。
喪服が汚れることも気にせず俺も隣に腰を下ろして、胸ポケットに忍ばせていたタバコを取り出す。葬儀場でタバコなんてマナー云々言われそうだが、あいつならきっと気にしない。……な、そうだろ、萩原。
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「______ッ、萩原あああああ!!!!」
カタリと、手に持っていた携帯が、地面に滑り落ちた。
吹き飛んだマンションのフロアを見上げて、込み上げてくる何かを堪えるように、俺は喉が焼き切れそうなほどに叫んだ。数秒前まで繋がっていたはずの携帯は爆発音と共にプツリと切れ、拾い上げて呼び掛けてもなんの反応もない。
あいつと繋がっている筈の無線も同じだった。周りで切られるシャッターの音ですら煩わしく感じて、荒くなる呼吸を整える。戸惑っている場合ではない。一刻も早く、あの二人の元に行かなくては。
だがあいつらの居る元まで走ろうとしたところで、入口前の警備員に止められてしまった。
頼む、通してくれ。まだ、中にあいつらが。
「俺は今からAちゃんを連れて避難する。……説教なら、そん時頼むよ。陣平ちゃん」
萩原ならきっと、降谷を連れて逃げ切れてるはずなんだ。あのゼロを説得してみせたあいつが、そう簡単にくたばるわけがない。だったら早く行ってやらねぇと。重症でも負ってたら、間に合わない。
「すまない」と心の中で謝罪をしながら職務を全うしている警備員二人を殴り倒し、マンションの中に押し入る。
降谷の部屋は、爆発元の一個下の階だった筈。大学生の時は萩原とよくあいつの家に集まったから間違いないだろう。
エレベーターは案の定動かない。ランプの付かないボタンを殴り、ゾッとするほど静かな非常階段を駆け上がる。
「萩原、降谷……頼む、間に合ってくれよ……」
高層マンションということもあってか、いくら上ってもゴールが見えない。その間に着ていた上着や手袋、腕などに付けられたプロテクターを全て脱ぎ捨て、気づけばズボンとワイシャツという一番身軽な状態になっていた。
くそ、どんだけ上に住んでんだよ。
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ひなみ - 読み終わった後、偶然、コナンのEDにもなった「ジューンブライド〜あなたしか見えない〜」を聴いたんですが、この曲の歌詞が妙にこの作品に合っている気がして、またこの作品を思い出して泣いてしまいました。心に残る素敵な作品をありがとうございました。 (2022年10月16日 17時) (レス) id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - 読み終わった今も涙が止まりません…。まず二人が助からないと分かったところで大号泣、夢主が既に亡くなっていたと分かったところで大号泣、最後の写真で大号泣…。ずっとギャグだったから、こんな結末全く予測していませんでした…。 (2022年10月16日 15時) (レス) @page49 id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 最後のイラストで涙が止まらなくなりました😭 (2022年6月23日 22時) (レス) id: 1cfa02e0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - まさかの結末で涙が止まらない、、、 (2022年6月14日 19時) (レス) @page48 id: 2eb7e133f7 (このIDを非表示/違反報告)
milk - なにこれ、悲し過ぎない!もうtシャツの袖がびしょ濡れになりました (2022年5月26日 0時) (レス) id: b9832e8e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無糖 | 作成日時:2021年7月25日 15時