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非常階段の扉の前まで辿り着き、レバーハンドルに手をかけて、思わず「ははっ」と乾いた笑いが溢れる。マジかよ、開かねぇじゃん。あーよく見たら扉歪んでるわ。ほんと、今日は厄日だな。
爆発が起こって尚エレベーターが稼働しているわけもなく、非常階段の隣の壁に重たい体を預けて、そのままズルズルと座り込む。もうあまり意識がはっきりしていない。腕の中にいるAちゃんですら、輪郭がぼやけ始めていた。
「あっはは……マジ、かぁ……折角、降谷ちゃんに……認めて、もらえた、のになぁ……」
こんなにも早く、この子を一人にしてしまうなんて。
……やっぱり自分の体のことは、自分が一番よく分かっている。さっきから痛みを全然感じなくなってきてるし、咳をしたら血が出てくるし、身体中に力が入らない。あんなにも軽々と抱っこできたAちゃんの体が、今は鉛のように重たい。
寧ろ、こんな状況でここまで来れたことの方が不思議だ。これが愛の力ってやつ?あれ、可笑しいな。俺、そんなロマンチストじゃなかったはずだけど。
「だから僕はお前を認めたくなかったんだ」
あぁ、なんか降谷ちゃんの声がする。そりゃ、そう思っても仕方ないよなぁ。幸せにするって言ったくせに、先に死のうとしてる男とか。俺が降谷ちゃんと同じ立場だったら間違いなく殴ってる。死体蹴りされる覚悟はしとくから、どうか気が済むまで殴ってくれ。
……って、それは流石に倫理的に無理か。お前その辺厳しそうだもんな。
冷たいAちゃんの体を引き寄せて、彼女の肩に額を押し付ける。涙は不思議と流れない。それどころかどこかフワフワとして、まるで夢の中に居るみたいで。
「……ずっと、一緒に居よう……A……」
一度下げてしまった瞼は、もう二度と、開いてはくれなかった___。
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______警視庁から、萩原研二と降谷Aが死体で見つかったと報告があった。
発見者は萩原研二の親友、松田陣平。
彼は萩原の最後についてこう語った。
「あいつは最後まで、お前の妹を守ろうとしていた」と。
だったらなんだ。守ろうとすれば、守れなくても責めるなと言うのか。
「ふざけるな……ざけんなよ、萩原。なに勝手にくたばってんだよ。なぁ、起きろよ…………ッ、さっさと起きろ萩原ッ!!!!」
「ゼロ、やめろ。遺族の前だぞ」
頼むから、早く起きてくれよ。A、萩原。
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ひなみ - 読み終わった後、偶然、コナンのEDにもなった「ジューンブライド〜あなたしか見えない〜」を聴いたんですが、この曲の歌詞が妙にこの作品に合っている気がして、またこの作品を思い出して泣いてしまいました。心に残る素敵な作品をありがとうございました。 (2022年10月16日 17時) (レス) id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - 読み終わった今も涙が止まりません…。まず二人が助からないと分かったところで大号泣、夢主が既に亡くなっていたと分かったところで大号泣、最後の写真で大号泣…。ずっとギャグだったから、こんな結末全く予測していませんでした…。 (2022年10月16日 15時) (レス) @page49 id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 最後のイラストで涙が止まらなくなりました😭 (2022年6月23日 22時) (レス) id: 1cfa02e0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - まさかの結末で涙が止まらない、、、 (2022年6月14日 19時) (レス) @page48 id: 2eb7e133f7 (このIDを非表示/違反報告)
milk - なにこれ、悲し過ぎない!もうtシャツの袖がびしょ濡れになりました (2022年5月26日 0時) (レス) id: b9832e8e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無糖 | 作成日時:2021年7月25日 15時