彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

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「くっそー今日もダメかぁ」

「何度来たって同じだ。いい加減諦めろ、萩原」






今日も今日とて定型文をバッサリと切り捨てられた萩原は、特に落ち込んだ様子もなく慣れた様子でカラカラ笑う。
……いつ見ても、不思議な感覚だ。大抵の人間は、僕が少し冷徹に接するだけで手のひらを返して逃げて行く。顔だけのクラスメイトも、僕の存在が気に食わない他校の人間も、今までの人生で例外はいなかった。この警察学校に来るまでは。






「諦めねぇよ、俺」






隣でパックの抹茶オレにストローを刺していた僕に、彼は一つの迷いもなく断言した。
その顔に浮かぶのは、普段周りに振り撒いている胡散臭い笑顔とは違う、不敵な笑み。一瞬にして変化した雰囲気に眉を潜めてみせれば、僕が何かを言う前に萩原はさっさと居なくなってしまった。

毎日数十回は欠かさず同じ文面を叫ぶくせに、あいつの去り際はいつも潔い。数撃ちゃ当たる戦法なのか、単純にしがみついたところで相手が折れないと分かっているからなのか。




白いストローで吸い上げた抹茶オレの風味が口内に広がる。
……Aにオススメされて飲んだは良いが、やはり僕には甘い。十分の一も飲んでないのに捨てることも出来ず、甘ったるい飲み物を苦い顔で飲み進める。






「今日も来たのか？萩原の妹さんくださいコール」

「あぁ。通算341回も拒否らなければならない僕の身にもなってほしい」

「ははっ、お前も大変だな」






「カフェオレ要る？」と隣にやってきたヒロが聞いてくれるが、生憎今は甘いものは遠慮したい。
僕の表情で大体事情は把握したのだろう。彼はふっと息をもらすと、「またAちゃんオススメの？」と聞きながら、近くの自販機に小銭を投入していた。単純で悪かったな。


なんとか最後まで飲みきり、燃えるゴミと書かれた箱に空のパックを投げ入れる。同時に、背後で飲み物の落下する音が響いた。


廊下の向こうには、幼馴染だという松田と仲良く肩を組んでいる萩原の姿が見えた。その背中をしばし見つめて、徐に視線をヒロの取り出したペットボトルの水に移す。







「……Aちゃんのこと、心配か」

「……」







心配の一言で片付けられるのも癪だが、一言で言うならそうだ。心配だ。

周りにいくら過保護だと笑われようとも、両親の居ない世界で、Aを守れるのは僕しかいないと。……そう思って、今まで生きてきたから。


ずっと握っていたAの手をいつ離してやればいいのか、分からないんだ。






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