彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

拙い手話で縮まる距離 ページ17

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「Aちゃん、今日のお昼、陣平ちゃんと、三人で食べない？」

「！【私も一緒で良いの？】」

「そりゃもちろん！Aちゃんならいつでも大歓迎」







＿＿＿面倒臭い定期考査が終わり、夏休みも明けた教室。
茹だるような暑さは遠のいたものの、窓際にはまだまだ強い日差しが差し込む。そこで今日も優雅に本を読んでいたAちゃんは、俺の誘いにニコニコと微笑みながらお弁当を取りだした。


半年近く一緒に居ると、彼女について分かることも少しずつ増えてきた。
かなり早い段階で気づいたことでいえば、話すときに声量はあんまり関係ないとか。


俺たちはずっとゆっくり大きく話せば聞けているものだとばかり思っていたが、本人曰くその音を【声】と認識は出来ていなかったらしい。ほとんど口の動きで言葉を読み取っていたんだと。所謂読唇術ね。

その事に気づいてからは口を大きく開けて喋ることを心がけつつ、声量は変えないようになった。とはいえ本人も読唇術は極めていないらしいので、最近は筆談で会話することも多い。







「よーっす陣平ちゃん。今日中庭？」

「別にどこでも。降谷はどこが良い」

「【中庭！】」

「やっぱ中庭だろ陣平ちゃん！！！」

「こいつ鬱陶しいわ」







隣のクラスの陣平ちゃんとも合流し、いつの間にか出来上がっていた三人組で中庭に向かう。
お昼は基本Aちゃんがピアノを練習しに行っていて居ないのだが、それ以外の時は大抵この三人で行動している。休み時間だとか、合同授業だとか。

ただ帰り道だけ真逆なのが非常に惜しい。お陰で帰りは別々だし、色んなコンクールの準備で忙しいAちゃんの貴重な休日を暇人の俺が奪うわけにもいかず、一緒に居れるのは校舎内だけ。我ながら女々しい。いつから俺はこんなにも彼女にご執心になったのだろうか。




一人頭を抱える横で、早速陣平ちゃんとAちゃんは持参した昼食を食べ始める。
陣平ちゃんは今日も変わらず、料理の専門学校に通うお姉さんお手製の弁当だ。いつも思うけどクオリティーがお店なんだわ。店やってけるよ。







「あ、Aちゃんもお弁当？」

「……【松田くんのお弁当を見た後だと見せづらいね】」

「気にすんな。これは姉貴がバケモンなだけだ」







そう言って綺麗なだし巻き卵を一気に二つ口に放り込む陣平ちゃん。
料理の腕が化け物なのは俺も認めるけど、お前はもう少しお姉さんに感謝して食べた方が良いと思う。また「もっと大事に食いやがれ、この愚弟が」って言われるぞ。







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