彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

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だからピアノも弾けるんだと説明されて、ふと、入学式帰りの廊下で盛り上がっていた内容について思い出した。

今年の新入生の中に、推薦で来た難聴のピアニストが居る＿＿＿。

もしかして彼女のことだったのかと驚く俺の隣で、同じ想像に至った陣平ちゃんが体を乗り出した。







「もしかして、あんた、噂の、ピアニスト？」







わざわざピアノを弾くジェスチャーをする陣平ちゃんの問いに、曖昧に微笑みながら【噂になるほどの腕前では無いんですけど、一応ピアノで来ました】とスケッチブックに記す降谷さん。

本人はこう謙遜しているが、確かうちの高校はかなり音楽に力を入れていた筈。
昨年にも、色んなコンクールで何個もの賞を取るような人間が、わざわざ推薦で県外から来たほどだ。県内にも有名な高校はあっただろうに。


そんな高校に、耳が聞こえないというハンデを背負いながら、ピアノで推薦をもらって来たのだ。もしかしたら俺たちが無知なだけで、そういう界隈においてはかなりの有名人なのかもしれない。







「【いつかまつださんと萩原さんの前でも弾きたいです。その時は聞いてくれますか？】」

「だってよ、ハギ。かわいー女の子からのお誘いだぜ」

「そら断れねぇわ。……そん時は、こいつも、一緒に、聞くよ」

「！……【嬉しいです。ありがとうございます】」







ふわふわと辺りに花を舞わせながら、降谷さんはスケッチブックを抱きしめるようにして見せてくる。聞くと言っただけなのに大袈裟な子だな。勿論悪い気はしない。


本来なら今頃はコンビニの前辺りを歩いているところだが、陣平ちゃんが意外にも彼女に興味を持ったらしく、二人は一つのスケッチブックを介して談笑していた。
周囲から声という音が無くなって、紙にペンを走らせる音だけが反響する。なんだよ、俺だけ仲間外れか？俺の方が先に降谷さんと仲良くなったのに。


ジェラりながらも机に肘をついている陣平ちゃんの背中にもたれかかり、二人の手元を覗き込む。
【名前の漢字教えてなかった。松田陣平】【松田陣平さんですね！】【松田で良い】【じゃあ松田くんって呼びます】【及第点だな】
……え待って何一歩前進してんの？俺も萩原さんより萩原くんの方が良いんだけど？！







「【萩原さんも良ければ萩原くんとお呼びしても良いですか？】」

「Rather welcome」

「無駄に流暢に話すな。降谷が聞き取れねぇだろうが」

「俺も、Aちゃんって、呼んで良い？！」

「話聞けよ」







かくして俺は、クラスで初めて彼女と仲良くなったのであった。







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