彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

兄からメールが届きました ページ33

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【やっほーAちゃん！元気？俺は超元気！また近いうちに会いに行くからさ、その時はとびっきり美味しいケーキ屋さんに行こう！約束ね！】








定期的にメールを送ってくれる研二くんの細やかな優しさを感じながら、私もぽちぽちと文字を打ち込んでいく。






＿＿＿彼とは、ピアノで推薦を貰った高校で知り合った。


初めての普通の学級、初めての土地、初めての一人暮らし。
色んな初めてが重なって不安に押し潰されそうだった私の隣に、彼はやってきた。名前は萩原研二。隣の席の人の名前だけはちゃんと覚えておこう、と私が高校で初めて覚えた名前だった。

隣になった彼は、耳の聞こえない私に対しても分け隔てなく優しくしてくれた。移動教室の時はポンと肩を叩いてくれるし、授業で聞き取れなかったところは後からそっと教えて、何事もなかったかのようにクラスの輪に溶け込んでいく。

その自然な優しさに、いつの間にか目線を奪われていて。




私にとって、彼は初恋だった。







『俺、Aちゃんが、好きだよ』







……だから彼が私に告白してくれた時、真っ先に自分の聞き間違いを疑った。
実際はっきりと声は聞こえていなかったし、手話だって読み間違えたのかもと思えば、何も不思議じゃなかった。

だけど彼は急かしたりせず、困惑する私に向かってもう一度、同じ手話を、同じ言葉を、丁寧に一つずつ紡ぐから。今度は何かの間違いだと疑うことも出来なかった。







『【どうして】』







水平にした左手の下に人差し指を伸ばした右手を潜らせる。それを見た彼は困ったように笑って、夕陽の差し込む窓を背に、手話で言葉を返してくれた。







『【君とずっと一緒に居たいと思ったから】』







驚く私の前で、彼の手が「君は？」と続ける。

……彼からは、いつだって優しい音がする。音なんてほとんど聞こえたこともないけれど、出会った時からずっと、彼の音は変わらない。陽だまりみたいな優しい色をしていて、レの音に似ている。


いつもその音を見つける度に、彼の姿を探した。どこからか「Aちゃん」という形に口を動かして、笑ってくれるんじゃないかって。……そんな私の答えは、最初から決まってたんだ。







『【私も、貴方が】』







好きです＿＿＿最後まで言い終わる前に、彼の大きな腕が私の体を抱き寄せていて。フライングだと声に出しても彼は離してくれなかった。

ほとんど何も聞こえない中で、彼の心臓の音だけは、指先を通してはっきりと伝わってきた。






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