唇とマーマレード 7

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それからしばらくウトウトしていたけど、ハンモックを遠慮がちに揺らされたことで目を覚ました。

「そろそろ若葉達が到着する時間だよ」

何故か私を起こしに来た彼は、笑いを堪えたような表情を見せて目を逸らす。
　
…待って。
　
私の顔の周りに、何故かたくさん花が乗せられてるんだけど！？

「おかあしゃま、お花あげるね」

そう話してる傍から、柊が近くの野の花を摘んできては、私の頬の隣に乗せていく。

「なんかこれって、私が死んじゃってるみたいじゃない？」

また小走りで花を摘みに行く柊の背中を見送りながら、彼はくすくすと鼻で笑う。
　
柊は渉さんに顔は似てるものの、まるで違う性格に育っている。
　
きっと渉さんも、こんな風に家族に愛されて育っていれば、柊みたいな無邪気な子ども時代を送ってたのかな。

そうしたらきっと、今の彼とはまるで違う人間になっていたかもしれない。








「…あ、若葉達が来たかも」

表に車が止まる音が聞こえて、渉さんはゆりかごの中から椿を掬い上げるように抱き上げては、玄関に向かっていく。
　
その後を、柊が小走りで追いかけていく。
　
私は花を零さないようにそっとハンモックを降りて、ふと立ち止まった。
　
愛を知らずに育ってきた彼と、普通に愛されて過ごしてきた私と。
　
そんな２人が会社の為に政略結婚をしなければならなくなって。
　
最初の計画では、私達は仮面夫婦のまま、ずっと家庭内別居をしながら暮らしていく予定だったのに。
　
いろんな偶然や必然が重なって、こうして今、私達はここにいる。
　
しかも、２人の間には子どもが２人も増えていたり。
　
つくづく…、人生って不思議だ。






　
玄関先から、私を呼ぶ柊の声が聞こえてくる。
　
案外、この道で正解だったのかもしれない。




-END-

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