唇とマーマレード 5

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それからの私達は、私の目論見通りずっとベッドの上で過ごしていた。

現実のことなんかすっかり忘れて、バカみたいにくっついたり、イチャついたり、耽ったり。

こんな時間がずっと続けばいいのにと思えるほど、私達は怠惰の世界の中にいた。

真面目で融通のきかない彼は、最初はそんな生活に戸惑っていたものの、

３泊めの夜ぐらいになるとすっかり慣れ切ってしまい、自らベッドに横になっては私に手を伸ばすようになっていた。

「明日チェックアウトだけど」

…知ってる。

例の海沿いの綺麗なリゾートホテルに行くんでしょ？

「でもそこでは1泊するだけなんだよね？」

「そう
1泊したら、移動しない？」

「今度はどこ？」

「それを、そのホテルでのんびりしながら決める
現実逃避はこのホテルでおしまい」

…最悪だ。

私なんか、一生このままこの鄙びた部屋で現実逃避しててもいいのに。









「日本はどんな感じになってるか、連絡来てる？」

「…知らない」

だってスマホの電源は、ここに着いた日からずっと落としてるし。

逃避行中なんだから、現実なんて必要ないと思って。

「スマホは？」

私が無視を決め込んでるからか、彼は勝手にベッドサイドの引き出しを開けて、スマホを見つけてしまう。

「もしかして、充電切れた？」

私は黙って首を振る。

「まさか、電源切ってた？」

また無言で、今度は首を縦に振った。

「まあ…、電源を切りたくなる気持ちはわかるけどね
電源入れていい？」

「…いいよ」

不貞腐れて返事をすれば、彼は片手で私の頭を撫でながら、電源を入れてしまう。

あーあ、知らないよ？

現実なんて見ちゃうと、ますます逃げ出したくなると思うけど。








電源の入ったスマホのパスワードを、彼は簡単に入力していく。

教えた記憶はないんだけど。

でもまあ、私もいつも隣で見てて彼のパスワードも覚えちゃったから、お互い様か。

「メッセージ、623件だって」

くすくす笑いながら、彼は画面を見せ付けてくる。

ほぼ太輔と若葉からで、よく見ると千賀くんや橋本さんの名前も見えた。

スクロールしている彼の隣から、画面を覗き込んでみる。

「会社は特に変わりはないみたいだけど」

だけど文章からは、心配をかけまいと気丈に振舞っている太輔の様子が見て取れた。

急な社長変更と私の不在で、社員はみんな不安になってるんだろうな。

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