唇とマーマレード 5

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「渉さんはどうしたい？」

「俺は、数日間ここにいて、どこかに移動したいと思ってる」

「どこに？」

「まだ決めてないけど
今後のこととか、いろいろ考えなきゃいけないし
いろんなものを見て勉強したいと思ってる」

本当に彼はくそ真面目だ。

こんな時くらい、羽目を外せばいいのに。

ずっと生真面目に生きてきた彼は、羽目の外し方もわからないのかな。









食後も街を散策しながら買い物もして、

ホテルに戻ったら、部屋はもう綺麗に片付けられていた。

ベッドの上に乗った私達は、次々と買ってきたものを広げていく。

彼はほとんど荷物を持たずに来たから、着替えや日用品とか。

あと綺麗なチョコレートや珍しいスナック菓子、ワインのフルボトルも数本買った。

「ここ、一応３泊の予定で取ってんだけど、どうする？」

「延泊すれば？」

「散歩の途中、綺麗なホテルがあったの覚えてる？」

「覚えてるよ」

「ここをチェックアウトしたら、そのホテルに１泊しない？」

「…いいけど」

正直、気が進まない。

きっと私の為にそうしてくれようとしてるんだろうけど、私はここが気に入ってるのに。









「あと、お金のことだけど…」

彼は言いにくそうに、目線を下に向けた。

「わかってるよ
大丈夫、私が持ってるから」

さっきの買い物も私が全部支払ったことを、彼は申し訳なく思ってるんだろうな。

「若葉に預かったお金は、全部日本に置いてきたけど
カードや少しの現金なら持ってるから
それからこれ」

お財布から、一枚のクレジットカードを取り出して、彼の手のひらに乗せた。

「覚えてる？
結婚してすぐの時に、私にくれた家族カード
渉さんに渡しておくね」

だってこれは、渉さんのカードみたいなもんだし。

引き出しに入れたまま放置してたんだけど、何故か出発前に思い立って持ってきたんだ。

「これでお金の心配はなくなったよね？
次は？何が心配？」

私が彼の心配事をひとつひとつ消していってあげるよ。









「信じてもらえないかもしれないけど…、特にない」

彼はニコリともせずにそう答えた。

「Aさえいてくれれば、俺はもう何も必要ないかなって」

きっと彼は、本気でそう考えてるんだと思う。

そう思ったら、背筋が気持ちいいくらいにゾクゾクした。

究極に愛されるっていうのは、きっとこういうことなんだろうな。

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