唇とマーマレード 5

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目覚めたら、もう室内はすっかり暗くなっていて、

隣で彼は、すやすやと規則正しい寝息をたてていた。

幸せだね、私達。

もう何もなくなっちゃうけど、これから２人で新しく始めるんだと思ったら、なんだかワクワクするね。

出会った当初は感情なんてあるんだろうかと思ってたこの人が、今では私の隣でこんなに無防備に寝顔を晒してるとか。

終わったと思ってた私の人生も、捨てたもんじゃなかった。









その後すぐに起きてきた彼は、冷蔵庫の中を覗いてため息をひとつ。

「何も入ってないんだけど」

苦笑いでこちらを振り返って、

「買い物に行くか」

そう言って、エコバッグを探し始める。

「いいじゃん、レジ袋もらえば」

「溜まってくじゃん、あれ
それにエコ割引してもらえるし」

エコ割引？

ファーストクラスとか平気で乗っちゃうくせに、エコ割引とか気にしちゃうわけ？

夜８時のスーパーは人が少なくて、２人でカートを押しながら店内をゆっくりと見て回ることができた。

たまに私がこっそりカゴに入れたお菓子を見つけては、それを手に取ってじっと見つめて、カゴに戻している。

「こういうの好きなんだ？」

「食べたことある？」

「ない」

だろうね。

だって私の大好物の駄菓子だもん。

きっと子供時代の彼は、駄菓子なんて庶民的なもの、口にしたこともなさそうだから。









精肉売り場で私達は立ち止まる。

いい感じの霜降りな和牛ステーキ肉が並んでいて、いつもなら「これ食べようよ」とか気軽に言っちゃうところなんだけど。

彼は和牛コーナーを素通りして、隣のオージービーフのステーキを手に取った。

「こういうのも、試してみないとね」

「大丈夫？」

「調理法で美味しく出来ると思う」

そう言い切って２人分をカゴに入れた彼の横顔は、やっぱり今までとは違って見えた。

若葉の言うように、憑き物が取れたような、そんな感じの横顔をして。









帰り道、レジ袋を片手に持った彼は、もう片方の手で私の手を繋いでいた。

「変なこと言っていい？」

彼はそう前置きしてから、

「今まで生きてきた中で、今が一番幸せなんだけど」

いつものトーンでそんなことを言ってくる。

彼はどんどん進化していってるみたいだ。

もう彼は誰かに操られて動いてるんじゃなくて、自分の意志で歩き始めてるんだね。

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