唇とマーマレード 5

215 ページ15

約一週間ぶりの日本は、すっかり蒸し暑くなって梅雨の時期に入っていた。

帰国することは飛行機に乗る前に、若葉にはメールしておいた。

目立つから迎えに来なくていいって伝えてたんだけど…。

早朝着にも関わらず、若葉は到着ゲートの前で待ってくれていた。

「案外、帰ってくるのが早かったですね」

若葉はそんなことを言いながら、私達に近寄ってくる。

「迎えに来なくてよかったのに」

「お２人がいないせいで、私の仕事も暇なんです
それより長旅お疲れでしょうから、早くお部屋でお休みください」

…やっぱり帰るのか、あの家に。

そう思うと、タクシー乗り場までの足取りも重くなる。









タクシーの中でも、彼は秒で寝てしまい、

「渉様がこんな風に寝てしまわれる姿なんて、初めて見ました」

って、若葉も驚くくらい。

「変わられましたね、渉様は
表情がすっかり凛々しくなられて、憑き物でも取れたような…」

憑き物…！

でも確かに、ちょっと一皮剥けた感はあるよね。









久しぶりに帰った部屋は、出て行った時と変わらずで、若葉が毎日綺麗にしていてくれたのが一目でわかる。

「私は今日はこれで失礼しますので、お２人ともゆっくりお休みください」

若葉が早々に帰宅したあと、残された私達は何故か２人でお風呂に入っていた。

「時短だから」

とか、２人して変な言い訳をしながら、こんなことになっちゃったんだけど。

意外に一緒にお風呂というのも、新鮮で悪くなかった。

その後、寝室へ移動した私達は当然、変な雰囲気になるわけで。

今までいろんなことを我慢しながら眠っていたこのベッドで、変な気が起こらないはずがないよね。

「今日は私が脱がせていい？」

そう言って彼の服に手をかければ、彼はほんの少し抵抗の色を見せる。

「…何で？」

「脱がせたいから」

「Aが俺に脱がされた後ならいいけど」

…ってそれ、何のこだわり？

そんなに私に脱がされるのに抵抗があるんだと思ったら可愛くて、余計に脱がせたくなった。

キスを仕掛けてるうちに、彼の服の中に指を差し込めば、やっぱり彼はスッと身を引く。

それが面白くて、どうにかお互いの服を脱がそうと子どもみたいにはしゃいでたけど。

結局イチャつきながら、何度もキスを繰り返していた最中、

いきなり予告なしに寝室のドアが開けられた。

そこには、半裸の私達を見て呆然としてから、みるみる怒りで顔を赤くしていくお義母様が立っていた。

216→←214

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す