唇とマーマレード 5

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「じゃあ、今から言っていくね
行ったことある場所があったら教えて」

「いいけど」

だから私は思いついた場所を次々と口にする。

「ハワイ」

「別荘がある」

「ニース」

「大学の時に友達と行った」

「ケアンズ」

「行った」

「ゴールドコースト」

「行った」

…ちょっと待って。

本当に行きまくってない？

だけど、今までのは軽いジャブだよ。

ここからが本当に私が行きたがってる場所だから。









「タヒチ」

「…それはない」

そんな彼の返事に、私は1人ほくそ笑む。

「モルディブ」

「それもない」

「プーケット」

「ないかも」

「バリ島」

「ない」

彼の行きたかった場所と私の行きたかった場所は、どうやら全然違うみたいだ。

それだけ私達はタイプの違う人間なのに、何でこんなに惹かれ合うんだろう。









「ねえ、これってハネムーンみたいだね」

彼の方に顔を向けてそう訊ねたら、

「俺はハネムーンだと思ってたけど？」

真顔でそう返されてしまった。

「いつからそう思ってた？」

「Aとサントリーニ島を脱出した時から」

そんな時から？

私は今、不意にそう感じただけなのに。

本当なら私達のハネムーンはあのギリシャの別荘から始まって、ヨーロッパを回る予定だったよね。

一度目は私が逃げて、二度目は叶わなくて、そして今、こんな風に私達は予想外のハネムーンの真っ最中らしい。









夜になって、プールサイドのテラスに出た私達は、海とその周りに広がる夜景を眺めていた。

「渉さんを探しに行くって決めた時、若葉から別荘のリストをもらったんだけど
渉さんは絶対ギリシャにいるって確信してたんだよね」

あんまり夜景が綺麗だから、ついそんな話を始めてしまった。

彼がもしあの別荘にいなかったら、次はもう全く検討もつかなかったから。

「俺もギリシャなら、Aが探しやすいだろうって、思ってたのかもね」

隣で同じように夜景を眺めている彼の表情は、とても柔らかくて、

これが彼の本当の顔なんだなって思ったら、何故だか変に感動してしまった。

「ずっと一緒にいようね、私達」

急にいろんな思いが込み上げてきて、膝に置かれてた彼の手をぎゅっと掴んでみる。

「一生一緒にいるって、約束しなかった？」

今にも泣きそうな私を見て、彼はくすくす笑いながらこんなことを言ってきた。

「Aが傍にいないと息苦しいから
酸欠で死んでしまわないように、俺が死ぬまでずっと隣にいて」

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