唇とマーマレード 2

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「何で今謝るかな
ずっと知らんぷりしてたんだから、そのまま黙っておけばよかったのに」

冗談っぽくそんなことを言ってみても、彼からの返事はない。

もしかして、かなり落ち込んでる？

でも、それって何で？

そこまで反省する理由が知りたいんだけど。









「千賀くんから聞いたんでしょ？今日」

優しくそう問いかけたら、ようやく彼は口を開いた。

「そう」

「どうな気分だった？
他人から妻の誕生日を知るとか」

そんなつもりで言ったんじゃなかったけど、かなり嫌味っぽい言い方になってしまった。

「なんか…、恥ずかしかった
俺はAのことを大事にしてる自信があったし、ちゃんといい夫ができてると思ってた
でもそれは、表面だけのことで、
大事なことは何もわかってなかった」

そうだね、あなたは何もわかってない。

私はもう諦めてたから覚悟は出来てたけど、普通の人なら離婚案件だと思う。

「でもAは普段通りだし、気にしてないのかなと思って、この話題に触れずにいたんだけど
さっきAがお風呂に入ってる間に、瑠衣にLINEで相談した」

「何て言ってた？」









「かなり怒られた
人として最低だって」

うん、瑠衣さんなら言いそう。

だけど私は、こんな時に瑠衣さんに相談するんだ？ってことの方が気になるんだけど。

彼は黙って、そのLINEの画面を暗闇の中で見せてきた。

『渉は、妻の誕生日の重大さがわかってない
しかも新婚なのに
妻の誕生日は時限爆弾なんだよ
何日も前からその日に備えておいて、日付が変わったらすぐにその時限爆弾を解除しなければならないものなの！
それに、一日でも遅れてしまうと意味が無いから』

その文章を読んだだけで、笑いが止まらなくなる。

ベッドの中、笑いを押し殺してる私を見て、彼は不思議そうに訊ねてきた。

「そんなに面白い？
俺には意味がわかんなかったんだけど」

「時限爆弾の辺り？」

「そう」









「この時限爆弾は、誕生日のことだよ
その誕生日に備えてプレゼントや、その日の過ごし方を準備して、
誕生日の日付が変わったら、一番に「おめでとう」を言って、楽しく誕生日を過ごすって意味だよ」

彼はそれをしばらく反芻するように考え込んでから、

「Aもそうして欲しかった？」

無遠慮にそんなことを聞いてくる。

「そうかもね」

「…ごめん」

「嘘だよ」

最初から、彼がそんな器用なことが出来る人だとは思ってないから。

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