唇とマーマレード 2

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誕生日当日。

目覚ましをかけずに目覚めたら、もう昼前になっていた。

既にベッドには彼の姿はない。

リビングに出たら、若葉が掃除をしている最中で、

「渉様なら、ついさっき出かけていきましたよ」

って、聞いてもないのに報告してくる。

「ふーん…」

珍しいな、１人で出かけるとか。

最近ではいつも、週末の行動は２人一緒だったのに。

「誕生日プレゼントでも買いに行ったんじゃないですか？」

若葉はそんな言葉で、私に揺さぶりをかけてくる。

「変なこと言ってないよね？」

「誓って言ってません！」









ランチタイムになっても帰ってこなかった彼から、電話があったのは午後４時を回った頃だった。

『今、実家にいるんだけど
朝早くに呼び出されて』

「何かあったの？」

『母親の体調が悪いとかで』

「大丈夫？」

『軽い風邪みたい
大袈裟だから、あの人』

たぶんお義母様は、彼に会いたかっただけなんじゃないかな。

こんなことでもないと、彼は実家に行ったりしないだろうから。

『連絡もせずに出かけて悪かった
今から帰るから』

律儀な彼は、わざわざ帰るコールをしてくれたみたいだけど。

その日、彼が帰ってきたのは夜の９時を回ってからだった。









「ごめん、夕飯たべた？」

帰ってきた彼にいきなりそう聞かれて、答えに詰まった。

この時間だから、きっと彼は実家で食べてるはずで。

私が「食べてない」なんて言おうもんなら、彼は慌てて何か作り出すだろうから。

「食べたよ」

…嘘。

さっきから、お腹が鳴りそうほど空腹だけど。

「食べた」って言ったら、彼は少し安堵したような表情を見せたから。

今夜は夕食抜きだな。









「すぐに帰るつもりだったのに、母親が帰してくれなくて」

「体調が悪くて不安になったんじゃないの？」

「そうかもね
あ、お風呂入ってきていい？」

疲れた顔をした彼は、バスルームに向かいながら、

急にこちらを振り返った。

「明日、どこか出かけよう
Aが行きたがってた映画でも行く？」

まるで菩薩のように微笑みかけては、そのままバスルームへ消えていってしまった。









…勝負はどうやら、私の勝ちのようだ。

明日じゃ遅いんだよ。

だけど私は、知らないふりをしておいてあげる。

そして、誕生日の夜は更けていく。

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