唇とマーマレード 2

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「作るとしたら、体外受精か何かですか？」

そう言った途端に、彼は助手席の私を驚いたようにチラリと見た。

そんなに驚く？

ちょっと前の彼なら絶対言いそうなことを言ってみただけなのに。

「…普通に作ればいいんじゃないの？
そこは」

普通って…。

本当に夫婦ごっこをやるつもり？

愛もないのに？









とうとう車は高速を降り、信号に止まった。

「とにかく、子どもを作るつもりはないから」

そこは、きちんとしておきたいから。

ハッキリ言わせてもらう。

「それは、前に言ってた理由？」

「そう
私達みたいな家庭に生まれてきたら、子どもがかわいそうだから」

「でも最近の俺ら、普通の家族に近付いてきてると思うけど？」

「近付いてるけど、本物じゃないもん」

ほら、そこから先は言い返せないくせに。

本当は…、最近自分でも気付いてるんだ。

彼のことを愛おしいとか思ってしまう自分に。









信号が青に変わり、車をスタートさせるのに紛れて、彼はこんなことを言ってきた。

「Aに好かれたいって思う」

…は？

どういう意味？

「その好かれたいっていうのは、どういう意味で？
家族としてってこと？」

「わからないけど」

「わからないけど？」

ちょっとケンカ腰になった私をチラリとを横目で見て、彼は真顔で話を続ける。

「俺がこんなにAのことを愛してんのに、見返りがないのが寂しいだけ」

こんなセリフを真顔で言えるのは、彼が本当の恋愛を知らないからなんだろう、

愛されたいだなんて、簡単に口に出せるもんじゃないから。









「好きだよ、普通に」

だけら、そう答えてあげた。

今の彼は本当に尽くしてくれてるし、家族として好き。

だけど最近、こんな風に意味深なことばかり言ってくるのが悩ましくもあり、

そして臆病な私は、これ以上彼のことを好きにならないように必死なんだ。

「家族として？」

「うん」

「…なら、よかった」

運転席の彼はちっとも、よかったなんて顔をしてないのが気にかかった。

「不満？」

「何で？」

「不満そうな顔してるから」

意外に彼は感情が顔に出る。

微細でわかりづらいけど、最近はわかるようになってきた。

今だって、動揺してる顔になってるよ？

「恋愛の好きの方が良かった？」

それには何も答えてくれない。

「私が恋愛モードに入ったら、大変なことになるよ
きっと情緒不安定になって、渉さんに迷惑かけまくると思う
だから、このままでいようよ」

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