唇とマーマレード 2

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「そう」

「じゃあ、Aは藤ヶ谷くんといい感じなわけ？」

背中越しに聞こえてきたその声は、少し不安げに聞こえて変に胸がざわついた。

何でいきなり、こんなこと言ってくるかな。

しかも寝る前のベッドの中で。

もしかしてあの話が出た時から、ずっと気になってたってこと？

「太輔とはただの同期だよ
でも、一番仲のいい友達かもね」

「…そう」

たぶん彼は、また言いたい言葉を飲み込んだ。

本当はもっと聞きたいことがあるんじゃないの？









「じゃあ、私も聞いていい？」

その飲み込んだ言葉を、私が引き出してあげる。

お互い、言いたいことは言い合った方がいいんと思うから。

「前に言ってた、婚外恋愛の話はまだ有効？」

「婚外恋愛？」

「恋愛は外でしてほしいって話」

だけど彼は、そのまま黙り込んでしまう。

しばらくの沈黙のあと、

「できれば、婚外恋愛はしてほしくない」

彼はそうはっきり告げてきた。

「Aとは本当の結婚生活を送りたいと思ってるから
でも恋愛出来ない俺が、そんなことを言う資格はないだろうと思って」

そうだね。

そんな資格はないよ。

だけど、正直な気持ちを話す権利はあると思うんだ。









「私が誰かを好きになるのは嫌？」

「嫌っていうか…、複雑な気分」

「でも渉さんだって、外で他に好きな人ができるかもしれないし」

「それはないと思う、絶対に」

ずいぶんハッキリ言うんだね、そこだけは。

「渉さんはかわいそうだね」

「何で？」

「人のことを好きになれないとか、人生の半分は損してるでしょ」

「Aは？
今までいい恋愛をしてきた？」

「してきたよ、人並みに
恋愛中は精神的に揺さぶられまくって、喜怒哀楽も激しくなっちゃって、もう大変だったけど
楽しかったし、幸せだった」

「Aはもう恋愛はしないわけ？」

まるで夫婦の会話じゃないよね。

お互いの恋愛事情をベッドの中で探り合うとか、私達は相当イカれてる。









「しないよ
もう終わった」

「終わった？」

「私の恋愛人生は終わった
もう結婚しちゃったし」

嫌味で言ったんじゃないよ？

そう思って今、私はここで生活してるから。









「何で渉さんは人のことが好きになれないのかな
お母さんも原因のひとつ？」

「それもあるかもね
だけど基本は、面倒くさいんだと思う
誰かに自分の感情を揺さぶられたくないし
自分の領域に入ってきてほしくないから」

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