唇とマーマレード

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「今日はどこかに出掛けてたの？」

彼はその言葉に、やっぱり仏頂面で答えてくる。

「人と会ってた」

「仕事関係の人？」

「いや…」

彼の表情が「これ以上突っ込むな」って語ってるけど、私はわざと空気の読めないふりをして、質問を続けた。

「結婚式に来てくれてた人？」

だけど、

「来てない
久しぶりに会っただけ
…じゃあ、お茶ごちそうさま」

私を見もせずに、彼女だけに挨拶して彼は部屋に戻って行った。








「奥様、ぶっ込みましたね」

なのに彼女は楽しそうに、私の向かいの席に着く。

「だって、気にならない？
彼が正直に打ち明けるかどうか」

「正直に答えるわけないじゃないですか
名目上とはいえ新妻の前で、前の婚約者に会ってたとか」

そんなに後ろ暗い？

割り切った結婚なんだから、別にそれくらいいいのに。








「それより、大変ですよ
来週末は」

「若葉が大変なんでしょ？」

「奥様はご存知ないかもしれませんが…、
大奥様はかなりお難しい性格の方で」

「そうなの？」

「大奥様は元々、前の婚約者の方を大変可愛がっておいででしたから
ですので、この結婚のことも反対しておられました」

…そう言われたら思い当たる節はある。

顔合わせの時も結納の時も、お義母様は私と一言も会話を交わそうともしなかったし。

確か、目も合わせてもらえなかったはず。

「要するに、奥様は最初から大奥様に気に入られてないってことです」

「まだきちんと話もしてないのに？」

「そういうお方なんです、大奥様は
狭い世界の中で生きておいでの方ですから」

「狭い世界…」

「幼稚舎から短大までずっと同じ女子校で学ばれ、卒業後に結婚なさって、社会に出たことがないそうです
大奥様の世界はその女子校の中と家の中、同じような奥様方との集まりくらいしかないですから
かなり偏っておられるかと思います」

「けっこう、ハッキリ言うんだね
ご主人様なんでしょ？」

「…大奥様には、うちの両親や祖父母もさんざんやられてきましたから」









「ですので、週末の来訪の際は十分にお気を付けください」

そんな人とランチとか…。

…てか、本当に私の人生は終わったのかも。

冷血で自分勝手な夫に、意地悪な義母。

次はどんなモンスターが現れるわけ？

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