唇とマーマレード

20 ページ20

「寝込んだって？」

「しばらく入院していたと聞きましたが…」

だけど、とうとうマンションに着いてしまい、その話はそこで終了してしまう。








だけどしつこい私は、夕食の時にまた、その話題を持ち出してみた。

「さっきの話だけど…」

そう切り出しただけで、彼女は露骨に嫌な顔をする。

「そんなにしたくない？
この話」

「奥様、忘れてるようですから言いますけど、
私は使用人なんです
使用人がご主人様のプライベートな話を、ベラベラしゃべるわけにはいかないのです」









そんなやり取りをしているうちに、キッチンの奥のドアから、いきなり彼が現れた。

彼女はすぐに席を立つと、

「申し訳ございません、渉様」

と深々と頭を下げる。

「待って
若葉には私がお願いしたの
一緒に食事してって」

だけど彼はそんなことどうでもいいみたいで、早口で私に用件を告げた。

「来週末、うちの両親がここに来るって」

来た…。

いつか、こんな日が来るとは思ってたよ。

義父母の来訪。

「悪いけど、うまくやってくれる？」

「はい」

そう返事をしてみるものの、一体私は何をすればいいわけ？









彼女がお茶を用意したことで、彼は自然に席に着いた。

…ちょっと驚きなんだけど！

この部屋には寄り付きもしなかったくせに、簡単に席に着いて、出されたお茶を飲んでるとか。

「でも私、何をしたらいいのかな
食事の用意とか、お茶を出したりとか？」

「そういうのは若葉がやるからいい
あと、お昼に来るだろうから、ランチの用意をしておいて」

一緒にお食事ですか…。

結婚前、彼とも数回しか会ってない私は、もちろん彼の両親とも数回しか会っていないわけで。

どんな人なのか、私のことをどう思ってるのかすらわからない。

「Aは普通にうちの両親と、会話をしてくれるだけでいいから
聞かれたことに、当たり障りなく答えてくれれば」

それが一番難しいんだって。

庶民の私とセレブなご両親とは、きっと話も合わないと思うんだ。









「じゃあ、私は渉さんを立てて、渉さんをお慕いしてる風で接待したらいいわけ？」

「そうしてくれると助かる。」

それにしても、この部屋に来てから彼は全く表情を崩さない。

一見、怒ってるかのように見えるその表情を、なんとかして崩してみたい。

ふとそう思ってつい、、いらない質問をしてしまった。

21→←19

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す