唇とマーマレード

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なのに…、

「クリスマスディナー？
行ってもいいけど」

「行ってもいいけど」なんて言いながらも、太輔は意外と乗り気で、

「２人きりだと誤解されそうだから、誰か誘う？
千賀とかどう？」

って、勝手に話を進めてしまう。

「千賀くんだって、彼女がいるでしょ」

千賀くんは研究所の新人くんで、みんなから可愛がられてる末っ子的存在の子なんだけど。

イマドキ男子って感じで、クリスマスとか余裕で予定がありそうなのに、

「クリスマスディナーですか？
行きます！」

やっぱり前のめりでＯＫしてくる。

「千賀くん、彼女と予定あるんじゃないの？」

「今いないんで
今年は何して過ごそうかなー、って考えてたとこなんですよ」

「太輔は…、あ、彼女と別れたんだっけ？」

いつも苛められてばっかだから、わざと意地悪を言ってやったのに、

「Aがあんまり寂しそうだから行ってやるんじゃん
新婚早々、旦那さんが留守とか不憫過ぎるでしょ」

サラリと躱されてしまった。

本当に太輔は、私にだけ意地が悪い。









その日の夜、お風呂上がりにリビングでぼんやりしてたら、

キッチンの方から、遠慮がちなノックの音が聞こえてきた。

こちらからドアを開けてあげると、ビールを片手に彼が部屋に入ってくる。

「ちょっといい？」

って、さっきまで私が座っていた場所に勝手に座ると、彼は２本持ってたビールを１本渡してきた。

だから、何で近付いてくるの？

２人で飲むとか、私達はそういうんじゃないじゃん。

そう決めたのは、渉さんでしょ？






彼が言葉少なだから、クリスマスディナーの予定が決まったことを話してあげたのに、

「いいけど…
なんで男ばっかなわけ？」

彼は何故か気に入らないって顔をして、こちらを見据えてくる。

「仕方ないよ
女の子はみんな予定があるもん
それに研究室は男子が多いから」

「まあ…、いいけど。」

「大丈夫だよ
誰にも話すなって言っとく
結婚したばかりの新妻が、男２人を自宅に呼んでクリスマスディナーとか、聞こえが悪いもんね」

「そうじゃなくて…」

彼はそう言いかけて、その先の言葉を飲み込んだ。

自分だって、クリスマスは２泊で、誰かと遊びに行くくせに。

多分それは女の子で。

もしかしたらその相手は、瑠璃子さんなんじゃないかとか、

私だって余計な想像をしてしまうから。

もうこれ以上、私に関わらないでほしい。

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