白衣１ 轟焦凍 ページ25
「焦凍、お仕事忙しいでしょ？そんなに毎日来なくても良いのよ？」
体調が良くなって退院していた母さんが倒れ、また入院する事になり...俺は仕事帰りに毎日顔を出す。
「心配いらねぇよ、母さん。好きで来てんだから。」
「母さんに会いに...来てるのかな？」
口元を抑え、楽しそうに笑い出した。
「かっ、母さんに決まってる...だろ？何言って...」
コンコンッ...。
「失礼します。検温のお時間です。」
ドアがゆっくりと開き、背の低い看護師がにこやかに入ってくる。
俺に気付くと頭を下げ、母さんの手から体温計を受け取った。
(バレてたんだな。母さんには...敵わねぇ。)
そう、俺の最大の目的は、この看護師の医道Aさん。
毎日この時間に検温にやって来て、二言三言世間話をして部屋を出て行く。
たったそれだけの時間が楽しみで、顔が見たくて通ってきていた。
「そうなんですか、息子さんと私...同い年なんですか？」
「えぇ、医道さんと同じ24歳よ。」
「私の方が子供っぽくてダメですね。まだまだ精進あるのみです。では、また消灯のお時間に来ますね。」
母さんと俺に愛らしい笑顔を向け、次の部屋へと向かう。
(今日も...可愛い...な。)
「...凍、焦凍、聞いてるの？」
「...っ、悪ぃ。聞いてなかった。」
「可愛いわよね、医道さん。」
「な...いや...そう...だな。」
俺は顔が赤くなるのを感じ、「また来る。」と慌てて部屋を出た。
外へ出ると凍える様な寒さが身を包み、ブルっと体を震わせる。
実は彼女の事は...去年の今頃から知っていた。
知っていたと言っても、交通事故現場にたまたま居合わせた彼女が飛び出してきて、テキパキと怪我人の応急処置をしていく彼女の姿が忘れられなくて...。
俺は倒れた電柱の瓦礫を退かせたり、怪我をした人を彼女の所に運んだだけ。
(こういう人を...ヒーローと呼ぶんだろな。)
可愛らしい私服を泥と血まみれにして微笑む。
もう出会う事は無いと思っていたら、母さんの病院に居て、俺は勝手に運命を感じてしまう。
でも何をどう動き、何をどう話せば良いのか...全く検討がつかない俺は、今日も彼女の笑顔が見たくて病院に来てしまった。
(...だっせぇな、俺。)
イケメンヒーローだと世間を騒がせる俺は...実はこんなに情けない。
振り向いて母さんの病室を見上げ、「おやすみ。」と心の中で囁いた。
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作者名：梅シロップ | 作成日時：2018年2月3日 5時
