𓆌 ページ35
*
「ボス……一体あのガキに何したんです」
「あァ?」
「お嬢に惚れてたアイツですよ。たった今、死人みたいな顔して船を下りると」
「……。虐めちゃったの？」
「クハハ、ぬかせ」
翌日の朝、起こしに来たダズの困惑した顔を見て苦笑する。死人みたいだなんて、きっと余程酷い仕打ちを受けたのだろう。不本意ながら私も関与しているので笑い事ではないけれど──しかし、これを笑わずに何とするのか。上機嫌な隣の男は満足気だ。
「俺ァ何もしちゃいないさ」
「じゃあどうして降りちゃったの」
「さぁな。嫌なもんでも見たんじゃねェのか?」
「……あ、まさかあの時、外に」
「……何だ。気付いてなかったのか」
「──嘘でしょう! 恥ずかしいにも程があるわ!」
道理で突然素直に休む気になったと!
「ごめんねダズ、半分は私の責任だわ」
「ええ。アンタももう少し自分の態度に気遣ってください」
「誑かした記憶はないのだけれど、心に留めておくわね……」
疲れた様子で部屋を出て行く背中を見ながら、何だかな、と息を吐く。恋が破れたからといって船を下りるだなんて、贅沢というかなんというか。下っ端とはいえ海賊なのだから、情けない真似はよしてほしいものである。
「クビにする手間が省けたな」
「見せ付けるくらいなら公表すればいいじゃない」
「攫われる機会が増えるぞ」
「空を走って逃げるわ」
「……」
「……嫌なの?」
今に始まったことではない。そもそも、彼は私の手配書が出ないようあらゆる手を使っているのだ。戦闘時は絶対に外に出るなと言い含められているし、島に降りる時も帽子を被って出来る限り顔を隠す。私の能力を役立てる事はあるけれど、それだって周囲の安全などを確保した面でのみのことだ。
「戦えない以上、足手まといであることには違いないわ。……でも、私はクルーであるより前に、貴方の恋人よ」
黙りこくってしまった彼に俯いた。我儘を言っている自覚はある。しかし、ちょっとだけ悲しいのもまた事実なのだ。公表したくない理由でもあるのだろうかと不安になるのも、本音なのだ。
……やがて彼は深い溜息を吐き、くしゃりと私の頭を撫でた。「子供みたいな顔をするな」という声はいつも通りだが、その表情は僅かに柔い。
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おはよ - めっちゃ面白い作品でした！最高です (2023年3月20日 22時) (
レス) @page44 id: d4f6705fb9 (このIDを非表示/違反報告)
白鯨(プロフ) - みうしさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 私としましてもまだ書きたいものが幾つかありますので、またぼちぼち気まぐれに更新しようかと思います。何卒気長にお待ちください。 (2022年11月13日 23時) (レス) @page32 id: 7a595430fd (このIDを非表示/違反報告)
みうし(プロフ) - 大好きな作品が終わってしまって寂しい〜〜泣泣と思っていたら番外編も書いてくださるんですか😭😭是非読みたいです……！！ (2022年11月12日 8時) (レス) id: f1ae5cae79 (このIDを非表示/違反報告)
愛ってなんや？ - 面白いです！！続き待機してます！！ (2022年10月23日 14時) (レス) @page19 id: 027cc676f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白鯨 | 作成日時：2022年5月25日 10時
