番外 June. ページ33
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背筋を伸ばす。ぐっと力を込めればパキポキと小気味良い音が鳴った。ペンを置き時計に目を遣ると、短針が六を指している。作業を始めたのは一時頃だったので五時間も没頭していたらしい。絵を描いている時もそうなのだが、夢中になりすぎる癖はそろそろ直した方がよさそうだ。
出来上がった書類を抱えて部屋を出る。と、丁度通り過ぎる所だったらしい船員が運ぶのを手伝ってくれると言うので、ありがたくお願いして船長室に向かう。聞けば彼はつい最近入ったばかりで、仕事を終えて暇だったそうだ。歩きながらこの船に乗った理由など、色々な話をしてくれた。元気一杯な良い子である。
そうこうしているうちに部屋に着いたので、ここから先は大丈夫だと船員君とお別れした。一緒に入っても良かったのだが──扉を開け室内の鋭利な雰囲気を感じ取った瞬間、ああ正解だったと息を吐いた。
どうやら部屋の主は相当ご機嫌斜めらしい。ギロリと睨む琥珀の目。
「頼まれてた事は全部終わったわよ。……何かあったの」
「……先日入れた船員がまた馬鹿をやった」
「あらまあ」
金銭面での何かしらがあり、その対応に追われているらしい。机の上には大量の書類が散乱しており、吸殻入れにある葉巻の量もかなりのものだ。気のせいでなければ彼の目元には薄い隈も見える。
「……。何か飲む?」
「珈琲」
「はァい。いつものね」
慣れた手付きで淹れる私の手元をじっと見つめ、彼は何本目かの葉巻を砂にした。……吸殻入れに捨ててないものもあるのなら、やはりかなりの量を吸っているのでは。純粋に身体が心配である。
芳ばしい香りが漂い始め、ようやく彼も立ち上がった。ソファにどっかりと腰を下ろし、ベストを乱雑に脱ぎ捨ててシャツのボタンも数個開け、僅かに乱れた髪を撫で付ける。
出来上がった珈琲を手渡し向かい側に座ろうとすると、鉤爪で腕を引かれ隣に倒れ込んだ。暑苦しいのを嫌う彼の事なので今は離れている方がよいかと思ったのだが、どうやら杞憂であったらしい。「お疲れ様」と声を掛ければ、溜息が帰ってくる。
「だから船員は増やしたくなかったんだ。教育する時間も勿体ねェ」
「……教えてあげなきゃポンコツのままよ?」
「手を掛けてやってもポンコツだ」
「あらまあ」
本日二度目のあらまあ、である。
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おはよ - めっちゃ面白い作品でした！最高です (2023年3月20日 22時) (
レス) @page44 id: d4f6705fb9 (このIDを非表示/違反報告)
白鯨(プロフ) - みうしさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 私としましてもまだ書きたいものが幾つかありますので、またぼちぼち気まぐれに更新しようかと思います。何卒気長にお待ちください。 (2022年11月13日 23時) (レス) @page32 id: 7a595430fd (このIDを非表示/違反報告)
みうし(プロフ) - 大好きな作品が終わってしまって寂しい〜〜泣泣と思っていたら番外編も書いてくださるんですか😭😭是非読みたいです……！！ (2022年11月12日 8時) (レス) id: f1ae5cae79 (このIDを非表示/違反報告)
愛ってなんや？ - 面白いです！！続き待機してます！！ (2022年10月23日 14時) (レス) @page19 id: 027cc676f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白鯨 | 作成日時：2022年5月25日 10時
