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──行先は、アラバスタから遠く離れた小さな町だった。春には花が木を彩り、冬には純白の雪が降るそうだ。島の南西部には大きな花畑があり、観光地として名を馳せているらしい。
長期間滞在になると事前に聞いていたらしい町長は、丁度空いたばかりなのだと崖の上にある小さな家を貸してくれた。花畑を超えた先にあり、窓からは海を一望できた。少し寂れた一軒家は、私の理想そのものだ。
レインディナーズの地下にある、広い部屋を思い出す。
あの場所の物はほとんど置いてきてしまったのだ。持ってきたのはお気に入りの食器と食材を少し、それから水槽にいた赤い金魚。今は町長さんから譲り受けたガラスケースの中を悠々と泳いでいる。
……それから、使い古した丸椅子と絵の具、筆、キャンパス。過去に描いた景色の数々。
そこまで思い出して、はたと手を止めた。瞬きした瞼の裏に青色が蘇った。
「……あーあ。……忘れちゃった」
コポコポという水の鳴る音は聞こえない。丸椅子の前──水槽の傍に立て掛けたままのあの海の絵も、きっともう目にする事は無いだろう。あの薄暗い静かな部屋で、ひっそりと色褪せて行くのだろう。
ピアノも、ギターも、調理器具も。彼が扱う機会など無いはずだ。
遠くからさざ波の声がする。砂漠の熱が恋しくなった。
いつか、会えたなら。声を聞ける日が来るのなら、その時こそ。
「……私の心を、貰ってね」
願わくば、命と共に。
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──数日後、新聞に大きく掲載された彼のボロボロの姿を見て、柄にもなく声を上げて泣き喚いた。私も連れて行ってくれたら良かったのに、と毒を吐いた。一般人である私が何の役にも立たないことは分かり切っているけれど、一緒に逃げるくらいのことは、出来たかもしれなかったのに。
嘆いても何も変わらない。ただ、彼が私を置いていってしまったという事実だけが胸を突いた。
ロビンが捕まったという情報は記されていないので、その点に関しては安堵して。
さようなら、と涙を零す。私の心に死ぬまで残る火傷を残し、火を消さぬままに去った人。今尚私の心臓を握る、何より憎くて、愛しい人。
さようなら。
さようなら。
ああ、もう全て、遅いけれど。
深い皺の刻まれた額にキスをして、愛していると、伝えたかった。
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おはよ - めっちゃ面白い作品でした！最高です (2023年3月20日 22時) (
レス) @page44 id: d4f6705fb9 (このIDを非表示/違反報告)
白鯨(プロフ) - みうしさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 私としましてもまだ書きたいものが幾つかありますので、またぼちぼち気まぐれに更新しようかと思います。何卒気長にお待ちください。 (2022年11月13日 23時) (レス) @page32 id: 7a595430fd (このIDを非表示/違反報告)
みうし(プロフ) - 大好きな作品が終わってしまって寂しい〜〜泣泣と思っていたら番外編も書いてくださるんですか😭😭是非読みたいです……！！ (2022年11月12日 8時) (レス) id: f1ae5cae79 (このIDを非表示/違反報告)
愛ってなんや？ - 面白いです！！続き待機してます！！ (2022年10月23日 14時) (レス) @page19 id: 027cc676f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白鯨 | 作成日時：2022年5月25日 10時
