夢記録【d!】 (ページ2)

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ボロボロの手帳が1冊床に横たわっている。
ボロボロ、と簡単に表現したが見るに堪えない、誰かが踏んだとしたら相当な執念や執着、憎悪が垣間見えるようなみすぼらしさである。

「…さぁ、あなたの夢をお聞かせ願えますか？」

すらりとして白い指が手帳を拾い上げた。そうして彼女は相手に向かって微笑みかけた。
Aはカウンセラーとして多くの人々に寄り添うことを仕事としている。
彼女は国内では珍しい、夢に重きを置いて相手のことを理解しようとする心理士であった。
もちろん評判は上々だ。

彼女はこの仕事をくだらない、と本心では捉えている。
夢で人間を推し量れる訳が無いのだ。その人にはその人なりの苦労やら栄光があったわけで、寝ている間の幻覚から何を考えているのか。何が本人を悩ませているのかなんてわかるわけが無い。

だから話を聞くだけなのだ。
相手は大抵落ち着くところに落ち着いていく。本当は、

本当は誰も救いなど欲していない。

「…夢、夢か。」

ふむ、と向かい側に腰かけた男は、僅かに考え込む素振りを見せた。Aは男に対し僅かな違和感を出会ったその時から抱いていた。悩みを抱えている訳では無い。だが瞳に生気というものが全くと言っていいほどない。俯瞰している、というのが1番近いのかもしれない。

「…愛する女を殺す夢を見るんだ、毎晩な。」

やがてその形の良い唇から「夢」が紡ぎ出された。

虚ろな赤い瞳から目をそらす事も叶わないまま、Aはその夢を聞くことになった。