弐 ページ46
「ごきげんよう、壬氏さま」
また来たのか、暇人、という顔を表に出さないように気を付ける。
高順が見ているので、できるだけ穏便にいきたい。
「やっぱり、薬屋だよな。...化粧しているのか？」
「まあ、いつもよりは薄いですが」
今朝侍女たちに化粧を落とされた後、すっぴんを晒すのは控えたいと玉葉妃に伝えたところ、魂を抜かれたような顔で頷かれた。
それもそうだ、Aの本来の顔で参加なんてしたら、それこそ死人が出ると言うものだ。
いつものあれで化粧をしていたのか？と言いた気な、怪訝な表情をする壬氏。Aは顔を顰めた。醜女で悪かったな、いらっとする。
「見栄を張るな、そばかすが消えているし、いや、それ以外にも色々と変わりすぎていないか」
「ええ、そこまでしてないので」
そこまでの、とは言うが、一般的に見てそこそこの厚化粧はしている。元がいいと、薄化粧ではそれを隠すのも難しい。
「化粧をして消したんだろ？」
「化粧をしてないからないんですよ」
(...あー、適当にはいはい言っとけばよかった)
Aは、返答を間違ったことに気が付いたがもう遅かった。
いっときの苛立ちで判断を誤った自分にまた苛立つ。
「おまえの言っていることはおかしいぞ、矛盾している」
「いいえ。そんなことはありません」
Aはため息をついて説明を始めた。
化ける、
既婚の女がわざわざ醜くなるように化粧をする場合もある、と。
乾いた粘土と染料を溶いたものを、Aは毎日鼻の回りにつけていた。そばかすをぼやかすと、うまい具合にしみのようになる。まさか、そんなことをやっているとは思わず、誰も気が付かなかっただけだ。
それだけでなく、肌の色を黒くするおしろいや太すぎる眉、血色のない唇など細工は至る所にしている。
そうやってできあがったのが、そばかすとしみを持った特に特徴のない女。
だから醜女と呼ばれていた。
逆を言えば、そばかすもしみもつけなければ、ただの特徴のない、つまり平均的な整った顔立ちであることが言える。
それだけでなく、いつもの黒いおしろいも、輪郭を誤魔化す
多少いつもの化粧が残っていてもちゃんと「美人」と評することができるような、普段のAとはまったく違う顔ができていた。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月18日 22時
