傾国のひとりごと (ページ5)

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　　　　　参ページ5

Aは足早に洗濯籠を届けると、中央に位置する赤塗の建物を見た。東のはずれよりも洗練された、手の込んだ宮である。

現在、後宮で一番大きな部屋に住むのは、東宮のご生母梨花妃である。帝が后を持たぬ中、男児を唯一持つ梨花妃がここの最高権力者といえる。

そんな中、見えた光景はさほど市井と変わらないものだった。

罵る女とうつむく女と狼狽る女たちと仲裁する男である。

(妓楼とあんまり変わらないな)

至極冷静な感想を持ちつつ、第三者、つまり野次馬に加わるA。

罵る女は後宮の最高権力者で、うつむく女はそれに次ぐ存在、狼狽えるのは侍女たちで、仲裁に入るのはすでに男でなくなった医官だと、周りのささやきと風貌からわかった。

「おまえが悪いんだ。自分が娘を産んだからって、男子の吾子を呪い殺す気だろう！」

美しい顔は歪むとそれは恐ろしいものになる。幽鬼のような白い指先と悪鬼の如き眼差しは、頬に手を添える美女に向けられている。

「そんなわけないとわかっているでしょう。私の小鈴も同じように苦しんでいるのですから」

赤い髪に翡翠の目を持つ女性は俯きながらそう答える。西方の血を色濃く継ぐ玉葉妃は、顔を上げて医官の顔を見た。

「ですので、娘の容体も診ていただきたいのです」

仲裁に入ったものの、原因は医官にあるらしい。
医者が東宮ばかり診て、自分の娘を診ないことに対し玉葉妃が抗議をしにきたようである。

母親としての気持ちはわからなくもないが、後宮という仕組みから男児優先は当然である。
医官にしてみれば、いわれのないと言いたい顔であるのだが。

(馬鹿なのかしら、あの医官)

妃二人のあんなに近くにいて気づかないとは。いや、それ以前に知らないのか。

乳幼児の死亡、頭痛、腹痛、吐き気。そして、梨花妃の白い肌とおぼつかない身体。

ぶつぶつとひとりごとをつぶやきながら、Aは騒動の場を後にした。

(なにか、書き物はないかな)

と、考えながら。

よって、通り過ぎる人物に目もくれなかった。