炎 壱 ページ37
(やっぱりあった)
Aは洗濯籠片手に喜色を浮かべる。
東門のそばの松林、生えているのは赤松だ。
後宮内は概ね庭園の管理は行き届いている。松林も年に一度、枯葉や枯れ枝を取り除かれており、それはとある茸の生育を促すのである。
手に持ったのは笠の広がりも少ない松茸であった。
匂いが嫌いという人間もいるが、Aは好物であり、四つに裂いて網で焼いて塩と柑橘を搾って食べるのは至福の時だ。
小さな林だったが、都合よく群生を見つけたので籠の中には五本の松茸が入っている。
(おっちゃんのとこで食べようか、それとも台所で食べようか)
翡翠宮で食べるとなると、食材の出所を聞かれるかもしれない。林でとりましたとか、ちょいと女官としてはあってはいけないことかもしれない。
なので、人は良いが仕事が駄目なお人よし医官のもとに向かう。好きだったらそれでよし、嫌いでも見逃してくれるだろう。
途中、小蘭のところによるのも忘れない。友達の少ないAには貴重な情報源である。
梨花妃の看病で顔の肉が落ちたAは、戻るなり先輩侍女たちに太らされることとなった。
相対する妃のもとに二か月もいたというのに、その反応は嬉しい一面、困るものであり、籠には茶会のたびに貰う月餅や
甘味など滅多に食べられない小蘭は目を輝かせ、短い休憩の間ずっとAと話してくれた。
あいかわらず、怪しげな怪談めいた話が多かったが、
「宮中の女官が媚藥を使って女嫌いの堅物武官を落としたのよ」
なる話を聞いてなんだか冷や汗をかいた。
(うん、たぶん関係ないはず。たぶん)
そういえば、誰に使うのか全く聞いていなかった気がする。
宮中とは、ここ以外の宮廷内のことをいう。
まともな男性がいる分、宮中の女官は競争率の高い花形職業である。
ちなみにここは、まともな男性がいない分、さみしい職場ということである。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月18日 22時