参 ページ39
炭に火をつけ、網を置き、手でさいた松茸を置く。そして、これまた勝手に果樹園から失敬した酢橘を切る。
独特の香りが鼻にかかり、少し焦げ目がついたところで皿に盛り、塩と酢橘をかけていただいた。
ちなみに二人のおっさんも共に口に入っているので共犯者決定である。
Aがもぐもぐと口を動かす中、やぶ医者はのんきに世間話をしている。
「嬢ちゃんはなんでもできるから助かっているんだよ。軟膏以外にもいろんな薬を作ってくれるんでね」
「ほお、そりゃあ結構だね」
まるで実の娘に接するようなのでいささか困ってしまう。
ふと、Aはもう半年以上も会っていないおやじどのを思い出した。
ほんの少し感慨にふけっていると、やぶ医者は実にやぶ医者らしい失言をしてくれた。
「ああ、作れない薬はないんじゃないのかね」
(はあ...)
Aが松茸を飲み込み、誇大広告はよしてくださいと言う前に、目の前の宦官は反応した。
「なんでもかい？」
「なんでもさ」
ふふんと鼻を鳴らすやぶ医者、ああ、やぶ医者たる所以である。
「じゃあ、呪いを解く薬も作れるのかい？」
男はかぶれた右手をなでながら言った。
気色はさきほどの青白い顔に戻っていた。
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一昨日の晩のことだ。
俺の仕事はいつもごみの片づけで終わる、後宮のあちこちから出たごみが荷車に集められて、西側で焼却されるんだ。
本当は夕方以降に火を放つのは禁止されているんだけど、風もなくて、空気も湿っていたんで問題ないと許可をだした。
下官たちが穴の中にごみを投げていて、自分も仕事を早く終わらせたかったから、同じように作業してたんだ。
そしたらさ、ふと、荷車の中に目につくものがあった。
よく見たら女物の衣だった。
絹ではなかったけど、上質のもの。捨てるにはもったいない。
どうしたものかと持ち上げてみたら、中にはばらばらの木簡が包まれてて、包んでいた衣は袖口が大きく焼け焦げてた。
いったいどういうことだって思ったけど、頭を抱えてても仕事は終わらないだろ？
俺は木簡をひとつひとつ拾い上げて、穴の中の火にくべたんだ。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月18日 22時
