傾国のひとりごと (ページ24)

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　　　　　弐ページ24

Aは、作り終えた風邪薬と洗濯籠を持ち、医局に向かう。
一応、形だけでも医官の判断に委ねるためだ。

(幽霊...ここ一か月位の出来事かな)

ありきたりな怪奇話にAは首を傾げる。
まだ、こちらに来る前には聞いたことのない噂だった。
噂という噂は小蘭が持ってきてくれていたので、最近できた話だとわかる。

後宮はぐるりと城壁に囲まれている。四方の門以外出入りができず、塀の向こうには深い堀が通っており、脱走も侵入も不可能である。
深い堀の下には、昔後宮から抜け出そうとした妃が今も沈んでいるなどと言われている。

(城門付近かあ)

近くに建物はなく、松林が広がっていたはずだ。

(あ、)

そういえば、この時期はとあるものの収穫期である。

よからぬことを頭に浮かべていると、狙いすましたかのように嫌な声が聞こえた。

「お勤めご苦労」

絢爛な笑みに、Aは無表情をはりつけたままで答える。

「いえ」

医局は南にある中央門のそばにあり、後宮をつかさどる三部門もそこに居室を構えている。
壬氏はよくそこに現れる。
宦官ならば内侍省にいるべきだろうが、この男はどこの部屋にも所属せず、むしろすべてを監視するように眺めていた。

(宮官長よりも上の立場、ね)

可能性としては現帝の後見人といったところであるが、二十歳そこそこの青年がそれとは考えづらい。
玉葉妃と親しいことから、そちら側の後見人とも考えられるが、むしろ、

(皇帝の御手付きとか？)

御通りの際、玉葉妃との仲を見る限り正道(ノーマル)のようだが、人は見かけによらない。
いろいろ考えるのは面倒なので、とりあえず皇帝の愛人ということで片付けておこう。

「...何か失礼なことを考えている顔に見えるのだが」
「気のせいかと」

Aは一礼して振り返り、医務室に入る。そこではどじょうひげのやぶ医者がごりごりとすり鉢をすっていた。この医官の場合、薬を作るためでなく暇つぶしでやっているだけだとAはわかっている。

最初は訳のわからない小娘め、という態度だった医官だが、だんだんと態度が軟化してきた。
いまでは、茶菓子を出し、必要な材料を分けてもらえるようにまでなったのだが、医局としてそれはあまりよくないことである。
守秘義務だとか、なんだとかあまりにないのである。