石楠花 壱 ページ22
半月前、辺境の地。
遠征に来ていた軍隊が野営での食事を終え、あちらこちらで話している。
今回の遠征は軽く片付いてよかっただの、早く帰ってゆっくり休みたいだの、わいわいがやがやと明るい雰囲気だった。
それが、突如静かになった。
兵士が次々に腹を抑えて倒れ始めたのである。
突然の体調不良、それも複数人となると真っ先に疑われるのは食糧だ。
兵士たちの食糧は、近隣の村から調達したものだった。
村の者が毒を盛ったのだという主張に対し、決めつけるのは早計だ、毒かどうかもわからないと冷静に主張する者もいた。
しかし、結局、その村は異民族と関わりがあるため共謀して軍隊を陥れようとしたのだ、ということで話が終わったのだった。
「...ということがあったのですよ」
「まあ、それでどうなったのです？」
翡翠宮、応接室。いつものように暇人宦官が居座っている。
玉葉妃は壬氏の話に興味を持ったようだ。翡翠の目を丸くして、続きを促す。
「村長はすぐにとらえられ、逆らった村人はその場で処刑されました」
不憫なことだ。花瓶の水を入れ替えながら、Aは顔をゆがめた。
「ただ武官の間でも意見が割れておりまして。
薬屋、お前はどう思う？」
(なんで私に振るの...)
「お役に立てるかどうか」
「構わん、気づいたことがあったら話せ」
きらきらしい笑顔を浮かべて、貴人は言ってくれる。
「__では一つの意見として。
この花、石楠花なんですけど」
Aは持っていた花瓶に生けられた花の葉を一枚、ぷち、とむしる。
その葉の端を口に入れる。Aの頬が少し緩む。
「それ、おいしいの？」
玉葉妃が不思議そうに尋ねた。
「いえ、吐き気や呼吸困難を起こしますので、真似なさらないでください」
おい、と焦る壬氏。Aは気にしないでください、と言うと、話を続ける。
「このように、後宮内でも毒を持つ草木はあります。この石楠花は葉に。枝や根に毒を持つ植物もあります。中には、生木を燃やすと毒を発するものも」
壬氏は、Aが何を言いたいのか分かったらしい。顎に手を当て、つぶやく。
「なるほど、野営なら薪を集めて火をおこすことも、串や箸をその場で作って使うこともある」
「それじゃあ」
玉葉妃がはっとした顔になる。
「ええ、進言してみましょう」
壬氏も頷く。
(かわいそうなのはとばっちりを受けた村人ね)
少しでも彼らのために働きかけてくれれば。Aはそう思うのだった。
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作者名：泉 | 作成日時：2024年1月18日 22時
