8 ページ8
涙を流して語る彼女を前に、ふいに思い出したのは、初めて会ったあの日。
『あのー…』
『!?ふぁいッ!?』
『え、大丈夫ですか?』
今までまともに人と関われなかった彼女が
自ら声をかけるのに、
どれ程の勇気が必要だっただろう。
「君はとても素敵な人だからッ！」
『おはようございます!緑谷くん!』
『私も、ヒーローになります』
辛い身体を引き摺って
いつ倒れるかもしれない毎日を過ごすのに、
どれ程の恐怖が彼女を襲っただろう。
「緑谷くんはッ私のヒーローだからッ！」
不安な気持ちを押し殺して
恐怖に押し潰されそうな中で未来を語るのに、
彼女は…―――。
「絶対！！足でまといになりたくないんです！！だからッ私なんかに構わないで…脇目も振らずに、突き進んで下さいよ…！」
グッと額を僕の胸に押し付ける彼女の懇願に、唇を噛み締めて涙を耐えるも
そんなのはなんの意味もなくて。
「君との時間は本当に楽しかったんです…とても、幸せだったんです。だから、どんなに辛かろうが絶対…手離したくなくて…みっともなく君との時間に縋り付きました」
「……」
「もし手術が成功したとして…その先にこんな虚しい病室や独りぼっちの部屋での生活が、また一瞬でも待っているなら、私はッ…」
そっと手を離し、顔を上げて。
彼女は、
――――歪に笑った。
「いっそ、死んッ！？」
「ッ！」
ガチンッという音が、口内に鈍い痛みを生んだ。
合わさった唇もジンジンとした痺れが走る。
痛みが和らいだ頃に、ゆっくりと顔を離した。
「そんな言葉、君から聞きたくない」
「…っに、を…なんで…こんなッ…」
「好きだから」
「！」
大きく見張った双眼からは、もう涙は出ていなかった。
固まっている様子の彼女の濡れた頬に手を添えて、涙の跡を努めて優しく拭って。
「好きだよ」
今度はそっと、触れるだけのキスをした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 27人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
絵音(プロフ) - すごい好きです。主人公と 出久くんの本音を言い合うところとかほんのに好きです。素敵な物語を読ませてくれてありがとうございます…ッ！！！ (2019年5月22日 23時) (
レス) id: 740c8210f3 (このIDを非表示/違反報告)
ノルン(プロフ) - 凄くあったかい良いお話でした！生きて欲しいと説得？してるところとかもう涙が止まらず泣きながら読みました！素敵なお話を有り難うございます！ (2019年2月19日 23時) (レス) id: 265a916812 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ソーカ | 作成日時：2019年2月14日 14時
