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「ぁ…」
スマートフォンを仕舞った彼女に、声が漏れる。
話しかけるなら今かと、やはり緊張する面持ちで彼女へと足を進める。
空無さん。
途中、緊張で上擦ってしまった呼び名に違和感を抱くも、もしもの時を考えると、この方が良いと思えた。
もし、人違いだったら、結構…いや大分恥ずかしい。
「なんだ、緑谷出久」
「あ……ぇっと…そのっ」
出久。
あの子は自分の事をそう呼んでいた。
違いに、言葉が詰まる。
緊張から、変な汗も。
「……落ち着け」
「ごめんっ」
コレは、似ている。
あの子と会って暫くの間は、よくしたやり取り。
似ている。
その事が、スッと身体から余計な力を抜けさせた。
そろりと、目の前の彼女を見上げる。
「あの…空無、さん…」
「なんだ」
「僕の勘違いだったら、アレなんだけど…あの…僕小さい頃、たぶん君と会ってて…よく一緒に遊んだ、と思う…んだけど…憶えてないかな？」
「…顔も解らないのに、よく私だと思ったな」
「えっ！？あぁ…そう、だよね…えっと…その子もみずきって名前で、苗字は分からないんだけど…。それに…なんていうか…雰囲気が…その…」
「似ているのか？」
水揮の言葉に緑谷は力強い頷きを見せる。
「そうか…」ボソリと呟かれた、感情の読めない声音。
似ている。コレも。
ややあって、「私は…」。
「記憶力は決して悪くない。
幼い頃の記憶もきっと他人よりよく憶えている。
だから、君の言う通りなら、その記憶を忘れるわけがない。それに……」
そこで言葉を切って、水揮は緑谷以外の視線に意識を逸らし、再びそれを紡いだ。
「私は、幼い頃、家からは殆ど出させてもらえたことがない」
「！」
緑谷には、それが決定的な言葉に感じた。
出させてもらえなかった、ということはつまり、あの子ではないことを示していて。
だって『みずきちゃん』はいつもあの公園にいたし、小学３年まで、主にそこが自分達の遊び場だったのだから。
「そっか…」そっと俯いて、呟いた緑谷からは落胆の色が滲み出ていた。
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作者名：ソーカ | 作成日時：2018年5月22日 23時
