"ばじけいすけ"【場地圭介】 (ページ5)

今日:5 hit、昨日:12 hit、合計:88,377 hit

05** ページ5

「A！」

「どしたーん首締まるってしぬしぬしぬ」

突如胸ぐらを掴まれて見たことがない剣幕で友人に迫られる。
なんて凶暴な女なんだ。中学デビューで可愛らしい女の子になるんじゃなかったのかコイツは。

「なんであのダブりと仲良くなってんの！？」

「私の旦那」

「ごめん引いた」

友人の冷めた目を気にせず、赤く艶やかな小さな球体を箸で口に運ぶ。この噛むと派手に弾ける感覚が病みつきになる。
それに今更ではないか？私が仲良くなったのはもう1週間も前のことだ。

しかし確かに、噂が大きく出回ったのが入学から1週間後。つまり今の時期。
そう考えたら友人の発言も何ら不思議ではない。
自分の中での結論が腑に落ち、再び弁当の惣菜を口に運んだ。

「弁当食べながら漢字辞典見てるけど、あの人本当に大丈夫？」

「めちゃくちゃ可愛いよ。あっあげないからね」

「欲しくないわよ」

それもそれで納得できない。
何故こんなに可愛い場地くんを欲しないのか？初めて彼と話した暁には、可愛さのあまりアドレナリンが止めどなく流れ出すだろう。

友人の言う通り、彼は弁当片手に漢字辞典を読み耽っていた。
これでは昼食が主なのか漢字辞典を読むのが主なのか分からないではないか。
おまけに漢字辞典を読んであの彼が漢字を書けるようになるとは思えない。現に"桜"を五回程教えたが、毎度毎度全く覚えていなかった。

そんなところも可愛いな。
頬杖を付きながら恍惚と彼を見つめていると、目の前からの友人の視線が突き刺さる。
冷たさと鋭さがまさに氷柱。恐ろしい女だ。

「学園中の噂の主によくもまあそんな強行突破できるよね」

「場地くん可愛いから。結婚したい」

「マジでこんな奴に目付けられて可哀想あの人」

なんてことを言ってくるのか彼女は。
これは純愛だ。彼の可愛い姿を見守っていたいという不思議な愛情。
とは言ってもきっと分かってくれる人はいない。
彼の見た目にそぐわない頼もしい背中をじっと見つめる。太陽に照らされ暖かな光を帯びている。

自然をも自らの魅力の一つにする不思議な可愛い彼の良さを分からないなんて不思議な人達だ。こうも私の純愛も認めてくれないものか。
口を尖らせながら、また箸を進めた。