"ばじけいすけ"【場地圭介】 (ページ4)

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瞬く間に噂は広がった。
最初は数人程度の内輪でのものだったが、次第にクラス中、学年中が噂を種に会話の花を咲かせていた。
3組を覗きに来る他クラスの人々は皆、口並みを揃えてこう言う。

『３組にダブってるヤツいるらしいよ』

「場地くんおっはー！」

「んだよAか」

噂の的である場地圭介は何一つとして気にしていなかった。
喩えるなら、大家族の弟妹たちが騒いでも動じない長男のような堂々さである。

私も私で気にしていなかった。それは場地くんに対して抱く感情が野次馬程度で変わるはずもないから。
入学式から1週間が経とうとしつつ、彼との関係は比較的良好だ。そう私は思っている。

場地くんも私以外と未だに喋っていなかった。

「今日も手紙書いてるの？可愛いね結婚して私にも書いてくんない？」

「ケッコンってどう書くんだ？」

「んとね〜」

見事に話を逸らされた。それもそのはずこの男、何を言おうと漢字に話題を持っていく最早天才なのだ。
可愛いのでその話に乗ってる私も私だが。
いつものように余白に"結婚"と漢字を書いて見せる。

また一つ学べたと嬉しそうにする彼に好意が募る。なんて可愛い人なのか。
年上とは思えない学力な所も愛おしい。

「場地くん可愛いなあ」

「あ？オレはかっけぇんだよ」

「そんな七三瓶底眼鏡に言われても……」

「んだコラ潰すぞ」

言葉遣いは相も変わらず悪いが表情は特に憤怒している様ではなかった。
彼が愛読書という名の漢字辞典をまた1枚捲る。その音すら心地好いモノだと思ってしまう。

「この漢字違う」

「マジか！」

「この文章はこっちの漢字を使うの。ちなみにその漢字も間違ってるよ」

「ハァ！？オマエマジですげぇな！」

勘違いしないで頂きたいのは私は差程学力がある訳では無いということ。
勉強は嫌いだし特別頭が良いとは言えないが、悪いとも言えない。上の下、という表現が適切だろうか。
つまりは彼が悲惨というわけだ。

寧ろそれで良い。
私が彼に教えれば会話が弾むのだ。関わりを持てるのだ。
なんて幸せなことだろう。

「場地くん結婚したら毎日漢字教えてあげるよ」

「うるせぇよ」

「当たり強」

求婚しても許可はまだ降りないが。