"ばじけいすけ"【場地圭介】 (ページ28)

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着いた先はフツーの一軒家。
千冬と荒れた息を整え、震える手でインターホンを押した。
音がなり、暫くの沈黙。
オレはこの時間がやけに気を焦らせたように感じる。

『……はい』

出たのは弱々しげな声。多分、Aのおふくろだ。
オレらは名字を述べて、アイツに会いたいと告げた。
もちろん会えねぇことはわかってる。でも"会いたい"以外になんも思い付かない。

『少し、待っていただけますか』

「ッス！」

そう言うとインターホンが切れ、数分後におふくろさんが出てきた。
当然だが、顔色が悪そうだった。

「場地くんと、千冬くん？」

「ッ！」

「なんで、オレの名前を……」

「やっぱり。そうなのね」

優しく微笑んだこの人に、Aの明るい笑顔を思い出して涙が出そうになった。
どうぞ、と言われて家の中に入らせてもらう。

机の上には既に茶が2つ並べてあった。

「あの、なんでオレの名前知ってんの……スか」

「Aはね、周りの子より帰りが遅かったの。部活も入ってないのに。

どうして？って聞いたら、"場地くんと千冬と帰るのが楽しくて、つい毎日反対方向から帰っちゃうんだ"って」

「っ」

目からキレーに涙を落とす。
その様子を見ながらオレたちは呆然とこの人の次の話を待つだけだった。
Aの笑顔は心からのモンだったのか。
オレたちと居たのは本当に楽しかったのか。

そう気づいた。

「そうだ、場地くん」

「……ハイ」

Aのおふくろさんから受け取ったのは一枚の紙。
折りまくってるからか、かなり小せぇ。

「Aが死ぬ時に持ってた物なの。小さな密封パックに入ってたから唯一綺麗だったみたい」

「これが……」

「あの子ったら、大切な物はよくジップロックみたいなものに入れるの。いつもは変な癖やめなさいって叱るのに」

今は逆に役立ったみたい。

悲しげに微笑んだこの人の目には流れそうなほどの涙がまた溜まってた。
動揺を隠せず、ゆっくり手元の紙を見る。
そんなオレを心配そうに、不安そうに見つめる千冬。

すまねぇ。そんな顔にさせちまってんのはオレだよな。

息を吐き、手元の紙に書いてあるモンを読む。
汚ぇし見にくい漢字と、その上に比べ物になんねぇくらいキレーな字が小さく書かれていた。

目頭が熱くなる。
固めたはずの髪から一束だけ垂れ落ちた。

「…ぁ、あ……っ」

『名前！教えて！！』

『えーっと…ば、じ、けい……すけ？』

"場地圭介(ばじけいすけ)"

紙にはそう書かれていた。