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雨が傘を弾く音に心地良さを覚える。
そう言えば雨の日に場地くんや千冬と一緒に帰ったことはない。
彼らはどんな傘を持っているのだろうか。
……ビニール傘っぽいな。
2人揃ってビニール傘持っていたら笑ってやろう。
「あの2人相合傘しそう……クラスでも付き合ってる疑惑出てるし」
まあ私の場地くんを千冬という獣にあげ渡すはずがない。
これを千冬が聞いたらきっと"お前が言うな！"とキレてくるはずだ。
それを見て場地くんがいつも通り言う。
仲良いな、って。
下を向けば地面にいくつもの大きな水溜まりができていた。
そこに雨が落ちて水を弾く音が聞こえる。
辺りは暗く、街灯がなければほとんど何も見えないほど雨雲がかかっていた。
「明日は久々に場地くんと一緒に帰れる〜！」
スキップと鼻歌という、傍から見れば至極幸せそうな様子で歩く。
さすがに目の前から人が来た時は落ち着いたが。
今更ながら羞恥心に駆られる。
顔に熱が集まり、腹部にも熱さを感じる。これが最上級の恥を感じた状況というものか。
いや、違う。
これはそんなんじゃない。
腹部には熱さだけではなく、強烈な痛みがあった。
「え……？」
「呑気だな、渡辺」
暗くて誰かわからない。声は聞いたことあるが、思い出せない。
下に視線を動かせば男が持っているナイフの柄が見える。
刃の部分は私の腹の中。
「なんで、？」
「かぁい…威勢の良いのもいいが弱った声もいいなァ」
気持ち悪い。
誰かわからない。それが更に気味悪さが増した。
「最後の最後まで不快な野郎だ、ガリ勉…」
「ぁ、？」
「でもお前が最期に目に映すのは他の誰でもない、オレだ」
「ゲホッ」
口から血が溢れ出る。
腹部のナイフが引き抜かれた途端に全身の力も抜け、前から倒れる。
ただの水溜まりだったものが次第に赤黒いものに染め上げられた。
「だ、ぇ…か……」
「助け求めたって無駄だ。誰も助けになんて来ねえよッハハ！」
「っ」
気色の悪い唇を額に落として男が去っていく。
痛い。怖い。辛い。苦しい。寂しい。
グルグルと様々な感情が入り交じる。
『帰んぞA』
強ばっていた身体が緩む。
こんな時まで場地くんを考えるなんて能天気。
雨が私を優しく包むように降り注ぐ。
思ってたくせに言えなかったこと。
愛の言葉は言えるくせに"本音"はぶつけられなかった私。
今になって自信を持って、胸張って言えるよ。
初めて見た、夕陽に照らされた綺麗なあの笑顔を思い浮かべた。
「好き、だよ…場地くん……」
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作者名：＿＿＿ | 作成日時：2021年10月29日 18時
