"ばじけいすけ"【場地圭介】 (ページ21)

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「ば、場地くーん？」

「…」

「場地サーン？ペヤング買ってきますよ」

「…」

先生に呼び出しを受けてから何処か様子のおかしい場地くん。
ペヤングにすら反応しないのは変だ。
千冬と目配せをして、彼が反応するであろう言葉を投げかけるが心ここに在らず。
一体どうしたのだろう。

ふと足を止めた場地くん。
どうしたのかと千冬と同時に後ろを振り向けば、俯いて立ち尽くしていた。
眼鏡の反射で瞳は見えない。

「…千冬、すまねぇ茶ァ買ってきてくんねえか」

「あっハイ！了解っス」

少し距離のあるコンビニまで駆け足で向かった千冬。
フリスビーを取りに行く犬のように見えた。

千冬が見えなくなったところで場地くんが私の方へと目線を動かす。
反射で見えなかった瞳が、僅かに揺れ動いたのが見えた。

「んで、言わなかったんだよ……」

「え？何の話？」

無言で自分の右頬を軽く指す。
つまりは私に少し前まで付いていたあの傷のことを言っているのだろう。

「あー、これは何と言うか」

「田中だろ」

「！…どうして」

「どうして？ンなもんオレの台詞だ。何で言わなかった」

自虐するかのように鼻で笑う。
私はバツが悪そうに一向下を向いた。
やがて彼は私たちの視線を遮る一つの隔たりを取る。
よく見えた彼の瞳は哀しみを含んでいた。

「オレはAの何だよ。ダチじゃねぇのか」

「もちろん友達に決まって」

「だったら！だったら隠さず話すもんじゃねぇのかよ！！」

烏が数羽、仰々しい様子で羽ばたく。
肩で息をする場地くん。
私はそんな彼をただただ見つめ、瞬きを数回。

場地くんの事が今まで一番分からなかった。

「もうオレに関わんな」

「っなんで！？」

「なんでもクソもねぇ！！迷惑だつってんだよ！！！」

初めて聞いた彼の怒号。私に向けての感情。
何故か息が出来なかった。

悲しいのは私なのに、なんで場地くんが辛そうな顔するの？
そんな顔するなら言わないでよ。
やめてよ。突き放さないで。
まだ言えてないこと沢山あるんだから待ってよ。

そんな気持ちを何とか飲み込む。
ああ、遠くから千冬が駆けて来るのが見える。
千冬を巻き込むわけにはいかない。

場地くんを見つめて震える声で、手で、口で笑みを作った。
ほら、また貴方は傷付いた顔。

「…分かった。でもね、何があっても私の一番はずっと、可愛くて格好良い場地くんだから」

「チッ……」

千冬が完全に戻ってくる前に、3人で歩いて来た道を戻る。
彼の眼鏡を外した音がいつまでも耳にこびり付いていた。