今日:25 hit、昨日:0 hit、合計:16,520 hit
小｜中｜大
4 ページ11
――そして、彼女との交流はある日、プツリと途切れた。
桜が咲き、新年度が始まる。彼女の年齢を意識したことはなく、そしてそんな素振りもなかったが、おそらくは初等部を卒業して中等部にあがったのだろう。いずれこの日がくるとわかっていたものの、同じ校舎に、同じ寮に、彼女がいない。そこに棗はわずかな寂しさを覚え、同時にそんな気持ちを抱く自分に驚く。
その後、四月に入り半月が経っても彼女からなんの音沙汰もなかった。きっと、新たな環境に移り初等部にまで訪れる暇がないのだ。
思い返せば交流場所を棗の部屋に限定していたせいで、会いにくるのはいつも彼女のほうだった。ならば、たまにはこちらから出向いてやろう。
棗にとって中等部は決して心地のよい場所ではない。ただ棗を恐れ、遠巻きに見るだけならばまだしも、“人殺し”と、“放火魔”と喚き立て、さらに、この春より望みもしない幹部生の話も持ちあがっていることから、それをやっかむ連中が多くいる。雑音が多く鬱陶しい。
だが、彼女に会うためならばそれらすべてを飲み込めた。わざわざ会いにきてやったぞと、なにも言わずにいなくなるなんて何様だと、そう詰ってやるのも悪くない。
そうして重い腰をあげて、棗は気づいた。
何度も見た彼女の顔を、何度も口にした彼女の名前を、自分が思い出せないことに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きざし | 作成日時：2020年12月30日 2時
