愛を考えてみて、それから伝える【黒尾生誕祭】 (ページ18)

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その日まで教えないページ18

　

結婚前、同棲していた期間も含めるともう住み始めてそれなりに経つ家の鍵を、慣れた手つきで開けた。

「ただいま」と呟きながら中に入り、靴を脱いだと同時に鼻を掠めた良い匂い。

いつもなら俺より先に仕事を終えて帰宅したAがキッチンに立ち始める時間帯だから、こういう美味そうな匂いが鼻腔を擽るのはもう少し後なのに。

……そういえばあいつ、今日は半休取ったって言ってたっけ。

言われたのは数日前の話で、その時は「どんだけ張り切るんだよ」なんて言って、Aをからかうように笑った。

だけど実際こうして当日になれば、玄関に入ってすぐ良い匂いがするのも良いなと思う自分がいる。

嬉しくなって少し上がった口端をそのままに、廊下を進んでリビングに向かう。

「おかえり！」

「おー、ただいま」

俺が開けるより先にリビングの扉は半分ほど開いて、そこからAがニコニコしながら顔を覗かせた。

そのまま彼女に招かれるようにリビングに足を踏み入れる。

予想通り視界に広がった、テーブルの上に既に準備されていたいつもより豪華な夕飯に、またじんわりと嬉しさがこみ上げた。

「朝も言ったけど、誕生日おめでとう、鉄朗」

「サンキュ」

パタンと音を鳴らしながら扉を閉めたAが俺の背中に向けて放った言葉に、振り向いて返事をした。

相変わらず彼女はずっとニコニコしていて、いつもよりももっと可愛く見える。

「さっ、お祝い始めましょう！」

「ん。……でもその前にAちゃん、ちょっとこっち」

「わっ、なに？」

手を軽く叩いて小さく音を鳴らし、席に着こうと足を進めたAの腕を引っ張って抱き寄せる。

下から不思議そうに見上げてくるAに、自分でも怪しいと思うくらいの笑みを見せて、自分の唇を人差し指でトントンと数回叩いた。

「おかえりなさいのキスは？してくれないの？」

「……いつもそんなことしてません！」

「えーそうだっけ？あーあ、俺今日誕生日なんだけどなぁ」

「っ……、今日だけ特別に、だからね！」

その言葉にニヤリと笑って「はいどーも」と紡いだ俺の唇に、背伸びしたAの唇が当たる。

付き合い自体長いし、俺の誕生日を誰よりも祝ってくれるAだから、こう仕掛ければ断れないとわかっててやった。

それを彼女に伝えたら、顔を真っ赤にして怒るだろうけど。

「この策士め……」

「くっ、褒め言葉として受け取っとくわ」

　
　