その日まで教えない/ゆう ページ17
いつもより少し足早に駅を出て家路に就く。
頬を掠める１１月の冷えた風は、いつもなら定時まできっちり働いてそれなりに疲れた身体に嫌というほど染みるのに、今日に限ってはそんなに気にならない。
むしろこの寒さが心地良い気すらしてくるのは、俺自身が浮かれているからだろうか。
二十代も半ばに差し掛かったこの歳で、自分の誕生日に浮かれるなんてまるで子どものようだと内心鼻で笑う。
それでもどうしたって緩む頬は抑えられなかった。
小さい頃から毎年、いつもより豪華な料理と希望したプレゼントで祝ってくれた両親。
高校の頃、部室を飾り付けて盛大なパーティーを開いてくれたバレー部の連中。
昔から俺はかなりの幸せ者だったと思う。
そんな俺にそれまで以上の幸せをくれたのは、大学で出会ったAだった。
大学一年、付き合って初めて迎えた俺の誕生日。
一人暮らしの俺の家にケーキを持ってやってきた彼女が笑顔で紡いだ言葉は、きっと一生忘れない。
「誕生日おめでとう！生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう」
歯を見せて照れくさそうに笑う彼女がすごく愛しくて、自分の胸にぐっと引き寄せたことも覚えてる。
あの頃だってもちろん幸せだった。
だけど今年は、そんな彼女と結婚して初めて迎える誕生日。
……もうすぐ着く、と電話でもするか。
いつもなら何も言わずに帰るけど、そうしてまでも今声を聞きたいと思ってしまうのは、昔を思い出してか。
それとも結婚して迎える今日この日が、今までの誕生日よりも特別な気がして浮かれているからだろうか。
まぁ、どっちでもいいや。
そう思いながら、ポケットから携帯を取り出してAに電話を掛けた。
鳴り響く無機質な機械音すら、いつもと違って聞こえる。
「はーい、どしたの？」
コール音が途切れた代わりに電話越しから聞こえた声は、弾んでいた。
「あー……、もうちょっとしたら着く」
「……え、それだけ？鉄朗がわざわざそれ言うために電話してくるなんて珍しいね」
電話を耳に当てて、あははと笑う彼女が容易に想像できた。
笑われたって別にいいんだけど、本当の目的はそうじゃなくて。
「……お前の声が聞きたくなったんデスー」
「ふふっ。気をつけて帰ってきてね」
「ん」
バカみたいに甘い会話をした気分のまま電話を切った。
それでも新婚だしまぁいいか、なんて考える俺も相当バカかもしれない。
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ｒｕ:ｃ - 私の憧れ兼大好きな作者様が揃ってて、発狂しかけました← 一日遅れたけど、黒尾さん誕生日おめでとう。 皆さんこれからもがんばってください!!!! (2016年11月18日 22時) (
レス) id: 202298c49d (このIDを非表示/違反報告)
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