五十七話 ページ17
――――殺してやる。
小さく呟いたあるその言葉に、東郷さんはもちろん気付かない。気付かれたくなかった。
「このこと、言わなくてもAなら分かるよな?
言ったらお前の家族、皆殺しに――――」
――――これも、家族を守るためだ。
別に、兄貴たちの為じゃない。
傷付いた一松兄さんとトド松兄さん、それから父さんと母さんの為だ。
俺のせいで誰かが傷つくのが怖かった。
だから俺は東郷さんの言いつけを守ったし、傷の事を問われても適当に誤魔化した。
どうせ、誰も俺の事を気にしてないから。
×××
「ちゃんと、話さなきゃダメだって思ったんだ」
そう言った俺に、皆こちらを向いた。
これが最善の方法とは思ってないけれど、それでも俺たちは兄弟だ。
Aを置いてけぼりになんてできない。
「多分、俺が問題だったんだと思う。
Aが変わった意味」
皆が首を傾げた。…当然だ。
俺が口を開こうとすると、トド松がおどおどと手を挙げた。
「僕も、だよ。僕も関わってる」
俺はトド松の方を見て頷く。
視線を感じて、その方向を見ると、おそ松兄さんは静かにこちらを見据えていて、どこか恐怖を感じた。
「……Aってさ」
「え?」
唐突に口を開いたおそ松兄さん。
俺は唖然としておそ松兄さんを見つめた。
いつもより神妙とした顔つきで、俺の頬を汗が流れていった。
「今、何してんの?」
「…ああ、そうだな。それは気になる」
「あ、待って、待ってよ」
話を見事に逸らしたおそ松兄さん。俺は慌てておそ松兄さんとカラ松を止めた。
「…訊いて、Aの事だから」
「でもさ」
なんで邪魔するんだよ…、チョロ松兄さん。
俺は僅かに睨みを効かせチョロ松兄さんを睨むが、当の本人はどこ吹く風。
「今更Aのこと知って、何が変わるの?」
反論しようと俺が身を乗り出した時、どこか軽い声が居間に響いた。
「確かに、今更Aの事知ったって何も変わらないよ。
でも、僕たちはちゃんとAの事理解してあげなきゃ。それが、兄弟でしょ?」
十四松はそう言って優しく微笑んだ。
×××
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね! (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2016年10月23日 18時