【あらき】大好きなのは、貴方だけ。2【歌い手】

Song*43 ページ8

ライブは順調に進む。


始まる前、行ってきます、といって私とハイタッチをした2人は今、赤とピンクとペンライトの海で楽しそうに歌っている。


楽屋で見せたほんのちょっとの緊張も、今は全く感じられない。袖口で見てる私にも、楽しさが伝わってくる。


本当に楽しそうに、2人は笑って歌ってる。


私も、あんな風に歌えるだろうか。



私が歌うまで、あと2曲。

このあとお兄ちゃんとあらきさんが2人でハローディストピアを歌って、お兄ちゃんが1人でHappyHalloweenを歌ったら、MCを挟んで、私が出る。




ハローディストピアが始まって、盛り上がりは最高潮。

この曲本当に盛り上がるなぁ、なんて冷静に考えてるように見えて、その実現実から目を背けているだけだったり。


足ががくがくする。ちゃんと水分は摂ったはずなのに喉がカラカラのように感じる。



こんなんで歌えるのか、って後ろ向きになりかけたところで、お兄ちゃんのソロのためにあらきさんが袖口に戻ってきた。



『あ、お、お疲れ様です…』


あ「ん、ありがと！Aちゃん、大丈夫？」



大丈夫です、って言おうとしたのに上手く声が出なくて、あらきさんが大丈夫じゃないねー、と笑って椅子に座っていた私の隣に座る。





あ「Aちゃん、今何考えてる？」


『え…っと、お二人のライブが成功するように、お客さんを少しでも楽しませられるように…』


あ「ストップ」


『？』


あ「Aちゃん、これは俺ら2人のライブじゃなくて、Aちゃん…千雪さんを含めた3人のライブだよ。だから、千雪さんは俺らのサポートをしようと思わなくていい、俺とnqrseが隣にいて、お客さんが楽しんでくれてる、その空間を全力で楽しめばいい。…それに」



そこであらきさんは1度言葉を切って、私の目を見つめ直して言う。



あ「俺ね、めっちゃ嬉しいの。歌い手としても…友人としても大好きなAちゃんと、同じステージにたって、大好きな歌を一緒に歌えるの。」



めっちゃくちゃ嬉しいんだよね、って、私の大好きな笑顔で言う。



あ「Aちゃんは、どう？」


『…嬉しいです。ほんとは、ずっと、』




あなたと同じステージに立ちたかった。




あ「その気持ちだけ持っててくれたら、充分。」




その言葉に合わせるように、お兄ちゃんのソロが終わって、会場が歓声に包まれる。



ステージで待ってる。




大好きな貴方は、そう言葉を残して、光の海へ走っていった。

Song*44→←Song*42

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す