【第五十四話】黒揚羽と韓紅【赤水 蓮】 ページ9
静まり返った廊下をひしひしと一人の少年が歩いていた。たっぷりとした黒髪を揺らし、赤い韓紅の瞳は死んだように空を見つめている。ときたま、こほこほっと、咳を漏らし少年は夜空を見上げた。
「……血のかほり、ですか」
少年はそう言うと、くるりと来た道を戻った。
角をひとつ曲がり、まっすぐ行くとそこは少年の自室である。少年は小さく溜息をつくと、掛けられていた浅葱をそっと背に羽織った。浅葱とは正反対の目の韓紅はどこか、何かを悟ったかのように、目を細める。そして浅葱の羽織を静かに羽ばたかせた。
少年の名は赤水 蓮という。新撰組の所属だが、部隊はこれといって入っていない。理由は至極単純である。彼は……日の光を浴びることが出来ないため表ではあまり活躍できないのだ。日に当たると、何故か咳が止まらなくなり挙句の果てに血を吐く。そんな自分のせいで、周りに迷惑をかけるわけにはいかないと彼は新撰組への部隊の所属を断った。
蓮がまっさきに向かったのは副長の部屋だった。失礼しますと、情のこもっていない声でそうふすまの先に呼びかければ「入れ」と、強張った声が聞こえた。
蓮は、足を曲げ失礼しますと、ふすまを開ける。そして頭を深く下げた。
「蓮か」
「お久しゅうございます」
見えないが、彗の表情がいくらか和らいだ気がする。しかし、さしてそれを気にせず蓮は顔を上げた。そして赤い死んだ目で彗を見る。
「……陰之国が動き出したようですね」
「お前、今まで寝ていたのによく分かるもんだな」
「血のかほりがしました。この付近かと」
そうかと、彗は静かに目を細めた。今までとは、何か違う様子に蓮は薄ら薄らと嫌な何かを覚える。恐らく、あの化ケ物が動き始めたのだろう。
彗は刀を下げ、ゆっくりと立ち上がった。
「様子を見てくる」
いくら腕のたつ彗だけでも、心なしか不安を覚えたのだ、別に、彗は弱いなんて蓮はこれっぽちも思っていない。剣の腕はたつし、蓮も彼の強さは知っている。
しかし……彗は化ケ物、黒紫のことを知らないのだ。あの化ケ物を知らないまま、縄張りに踏み込めば……ああ、いや……やめておこうと蓮は首を振った。
「お前も来い」
彗はそう言って、蓮に視線を投げつけた。一瞬、蓮はついていくのを躊躇ったが彗の急かす視線に選択肢などはない……そう察し「仰せのままに」と、立ち上がった。
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蛇庵(りあん)(プロフ) - 続編いきました! (2016年5月3日 20時) (レス) id: 09ec081b29 (このIDを非表示/違反報告)
蛇庵(りあん)(プロフ) - しのっちさん» わかった!続編いくね。 (2016年5月3日 20時) (レス) id: 09ec081b29 (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - 蛇庵(りあん)さん» ……りあん、そろそろ続編にいった方が良いかもぉ…… (2016年5月3日 20時) (レス) id: 56a4443702 (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - ……手直しする…… (2016年5月3日 20時) (レス) id: 56a4443702 (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - ……終わった…… (2016年5月3日 20時) (レス) id: 56a4443702 (このIDを非表示/違反報告)
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