【第八十六話】帰ろう【赤滝 紅緋】 ページ40
紅緋は、ただその様子を見守っていた。口を挟もうとは思わない。兄妹同士の私情である。血のつながりが全く持ってない、部外者は見てるしかないのだ。もう、いっそのこと外で団子食って待ってたほうが良いんじゃないかとさえ思う。しかし、そんなことを紅緋が自問自答してる間にいつの間にか会話は終わり、朔が視線を紅緋に送った。
断る、権利は……ないかと、紅緋は自嘲し立ち上がる。
そして千代に一歩歩むと千代に手を差し伸べた。千代はといえば、赤く腫れた目で紅緋を見る。
微かに笑みを含み、紅緋はその瞳の小金を揺らす。
「千代、帰ろう」
その言葉に千代の目が大きく見開かれた。そして、また涙をその瞳に蓄える。
この子もまた孤独だったのだと、人だったのだと、紅緋は知った。それと同時に人は、孤独では生きていけぬと誰かが告げたのをふと思い出す。
そうか、そうだよな。紅緋はそっと千代を抱きしめた。
「大丈夫、千代は一人じゃない。お前が苦しくなったらいくらでも俺にあたってもいい。泣き叫んでも良い。この体が此処にある限り、俺は受け止めてやる。約束だ。
……だから、皆待ってる。お前の、今の居場所に帰ろう」
千代に釣られて泣きそうだった。鼻がつんと痛くなるのに、情けないと思いながら紅緋は目を瞑る。うまく笑えてたかなんて、そのときばっかりはどうでも良くて。紅緋は彼女の手を強く引いた。
戻っておいで、また、皆で笑おう。その手はそんな力強さを含んでいた。
✿
その日の夕焼けは酷く赤色に滲んでいた。どこか、また泣き出しそうな千代に紅緋は思わず笑ってしまいそうになるのを堪える。この子もきっと女の子なんだ。それが酷く愛おしく思えてしまう。
「……ん? そういやあ、まつりは?」
「……さあ、彼女のことですからどこかに行ったんでしょう」
そう、掠れた声で呟く千代に紅緋はそうかと頷いた。
微かにどこかで薫る血の香りは気のせいだといい聞かせながら。
【第八十七話】好奇心【鈴森 優衣】→←【第八十五話】解放【相樂 千代、佐伯 朔 】
5人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蛇庵(りあん)(プロフ) - 続編いきました! (2016年5月3日 20時) (レス) id: 09ec081b29 (このIDを非表示/違反報告)
蛇庵(りあん)(プロフ) - しのっちさん» わかった!続編いくね。 (2016年5月3日 20時) (レス) id: 09ec081b29 (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - 蛇庵(りあん)さん» ……りあん、そろそろ続編にいった方が良いかもぉ…… (2016年5月3日 20時) (レス) id: 56a4443702 (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - ……手直しする…… (2016年5月3日 20時) (レス) id: 56a4443702 (このIDを非表示/違反報告)
しのっち(プロフ) - ……終わった…… (2016年5月3日 20時) (レス) id: 56a4443702 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ