復讐のレクイエム2東京編

使用人過去編12 ページ20

「あ……」

見られてしまった。

(何か……)

何か言わなくてはと思うのに、驚きのあまり頭が真っ白になってしまう。

のえるは一歩後ずさると、華奢な肩を震わせながら言った。

「ぼ、僕 レオが血相を変えて走っているのが見えて……。心配で、一緒に後を追ってもらったの……」

のえるの後ろには、男性使用人がふたり控え、同じく驚いたようにレオを見ている。

「レオ。……どうして、『逃げ出した』と言っていたはずのレオが、こんなところにいるの？」

「あ……」

「迷わずここに駆け込んできて、リゼルの名前を呼べたのは何故？」

「ち……ちが、ちがう……」

　レオは、ふるふると首を横に振った。

「違うんです、のえるさま！ これはそう、リゼルが、すべてこの男が悪いんです！！ ケーキにゴキブリを入れたのもリゼルがやりました！！ 俺じゃないんです、違います！！」

「レオ！！ 見つけたぞ こんなところに逃げ込んで！！」

「ひ……お、旦那さま……！！」


誰かが呼んできたらしい旦那様が、手に鉄のパイプを握り締めている。レオはかちかちと歯を震わせた。

「貴様はクビだ！！ 二度と！ もう、二度と！ 普通の生活が出来ると思うな！」

「あ、た、助け……」

　失われてゆく。
　レオが人生のすべてをかけ登り詰めてきた、執事長という地位が。旦那様からの信頼が、誇りと名声が。

鉄のパイプが襲いかかる

(まだ……私には、希望が残って……)


　ひどく殴られ、右手で頭を庇いながら、レオは震える左手を伸ばす。だんな様の向こうにいるはずの、のえるに向けて。

「のえるさま……」

旦那様の喚く声が、鼓膜を揺るがす。

(私の、本当の主君……！！)

　けれど。
　
心配そうにリゼルを抱きしめるのえるは、レオを一度見てにっこり笑って言った

「た・の・し・か・っ・た・よ・♪」

全てを悟った時にレオの意識は手放された｡

ーー

あのあと レオは 執事長を下ろされ

リゼル ハーコートが執事長となった

輝かしいバッチをつけ だんな様に頼み込みのえるの専属となった執事

何も知らないリゼルは密かに笑った

(恨みを買って自爆したんだな)


ーー

「ったくおまえは怖いな」

幼い羚がのえるに言う

「みんな玩具のゴキブリに驚くなんて最高に面白かったよぉ！あっ〜でもネズミも良かったなぁ〜」

「そこは本物じゃないんだな」

「当たり前だよ！！そんなもの食べたくないもん！！」

「そうか…」

クスクスと二人の笑い声が陰に掻き消された｡

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