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…夢かと思った。
あんまりイザナに殴られ蹴られるもんだから、ついにマナカちゃんの幻覚でも見え始めたのかと、思った。
『なんで、マナカちゃんが、こんなとこいんの』
『あとで、必ず説明するから』
いままでずっと、ごめんね。そうっと俺の頭にあの柔らかくて薄い掌を置いて微笑むと、流れるようにイザナの元へ駆け出して行った。
手首になんかふわふわが付いた、いつもの真っ白なコートに、いつものブーツ。それでも少し違和感を感じたのは、1年見ないうちに、マナカちゃんの髪はさらさらのまんま、すげえ伸びたからだと思う。
あ。あと、鼻の頭もほっぺも真っ赤でなんか可愛かった。
『イザナ』
万ちゃん、ドラケンくん、シンイチローくん。
普段そう言うマナカちゃんが、イザナを呼び捨てしたのには多分マナカちゃんなりの理由があったんだと思う。
ど真ん中で倒れるイザナのすぐ横に屈むマナカちゃんを、俺は1歩後ろから見てた。
ぼーっと一点を虚ろに見つめていたイザナが、マナカちゃんの姿を捉えると僅かに身体を揺らした。
それから、マナカちゃんはイザナの耳元に口を寄せるように身をかがめて、何かしら言った。とおもう。
近くにいたけど、聞こえなかった。まぁ、聞いてやろうとも思わなかったけどさ。
マナカちゃんの長い髪の毛は、滝が流れ落ちてるみたいにイザナの顔の上に降り注いでいた。冷たい海の風が時折その髪をさやさや揺する。
ぽそり、ぽそり。ふたりの小さな声が響いてた。
そして、マナカちゃんが少し身じろぐ。かと思えば不自然に身体を前にぐぐぐと傾けて、イザナの真上に倒れ込む。
何事かとマナカちゃんのほうに1歩近づいた俺は思わず固まった。
じわり、じわりとマナカちゃんの真っ白なコートを侵食する赤色に。
『まなかちゃ、』
『なっ、にしてんだよ、イザナ……っ!?』
マナカちゃんは、血の口紅がつやつやと光る、震える唇を動かして、『いた、い』と呻く。
『…なぁマイキー。俺が救えるか?
救いよう、ねえだろ_____』
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作者名:亜秀 | 作成日時:2022年2月6日 20時