マリアに、懺悔。【1】 (ページ27)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:35,269 hit

22 ページ27

シンイチローくんは私に向かってヘルメットを投げた。反射的にぱっとキャッチする。彼が『ナイス』と親指を立てた。

『あっ』

『あっ？』

『あ』

瞬間、私のスカートが不自然にひらりと持ち上がって、揺れる。
小さな金色が私のすぐ横で駆け回った。

『マナカちん、いつもと違う変なパンツはいてんね』

『これはね、レオタードっていうの。バレエのお洋服』

『えーつまんねーの』

『残念だったねえ』

むーっと膨れるマンジローくんの頭を笑いながら撫でた。すると、シンイチローくんがはぁとため息をこぼす。

『…万次郎、こんな場所でやんな。というかそもそもその癖直せって言ってるだろうが』

『なんで』

『こんな道のど真ん中で…まなかのことも考えろよ』

『あ。シンイチローくん、あと15分でお教室始まっちゃう』

『おわっ、マジか。まぁ、安全運転でも5分少しくらいで着くから間に合うとして……万次郎。お前は家帰ってから＿＿』

『あれ、弟くんは？』

『……ほんと逃げ足の速いやつ…』

お兄ちゃんの彼女にスカート捲りをして、さっさと退散。

いつもは部屋の中でパッと捲っては、『あ、しろいろー』と謎の報告をしてシンイチローくんに現行犯逮捕されていたのだが、今回ばかりは逃がしてしまった様子。

ちなみに私はさほど気にしてない。
そーゆー時期なんじゃないかな。まあどんな時期かは知らないけど。

『弟くん、可愛いね』

『生意気な弟だって』

『私は好きだよ』

『えっ』

『だぁかぁらぁ、好きのベクトルが違うの』

マンジローくんと、エマちゃん。それから、イザナくん。
シンイチローくんには可愛くて面白いきょうだいが沢山いる。

『それは悪うございましたねー。

…よし、マナカ。しっかり掴まれよ』

『はあい』

ぎゅ、と回された腕は今日も届かない。

彼の脇腹あたりをがっちり掴んで、シンイチローくんって意外に大柄なんだなあなんていつも考えるけど、そのうち前で手が届くようになるのだろうか。

まぁ、その手が届く前に、彼は私の前からいなくなる訳だけれど。

……昔のことばかり思い出すのは、現実逃避したい現れなのだろうか。

目的地の第7埠頭までもう少し。

もう少し。

……でももう少しだけ、思い出の中にいたい。

『シンイチローくん、あいたい。

一人じゃ、こころぼそいの』

涙も脚も、止まらなかった。

この脚を止めたら不安で涙が無限に溢れて、その場に根が張ったみたいにもう二度と動けなくなりそうで。

．