【私的】あばれ大蛇とエンマさま (ページ20)

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常春の戯れページ20

妖魔界は常春とも言える程、桜の香りに満ち溢れていた。
ちらちらと舞う花弁はやがて春の嵐に煽られるが、其れでも尚何事もなかったかのように澄ました微笑を湛えている。
妖魔界は場所によって四季が全く異なっていた。
此処、閻魔宮殿は春の模様。
其れは幾ら時を経ても変わらない不朽の春季だった。
しかし春が何処にでもある訳ではなく、半刻程空を飛べば四季はガラリと変わっている。
人間界に居た頃は決して味わうことのなかった季節の不変は、始めの頃こそ小気味の悪さすら覚えたが何時の間にやら慣れてしまっていた。
書類を整理しながら桜を眺めて木洩れ日に当たると、後方に物音がした。
がたりと無機質に鳴った卓と床のぶつかり合う音は、誰かの存在を知らせた。
首を向けるだけの視認では今し方尻餅をついた間抜けな何者かを確認することは出来ず、結局誰だ、と声を掛け面と向かう形になる。
「あ…………」
居たのか、という無礼な独り言は聞かなかったことにしておき、兎に角何故資料の保管庫に無断で立ち入ったのかを問いただすことにしよう。
「何故此処に来た。歩き回るなとあれ程言いつけただろう。貴重な資料に傷でもついたらどうする。」
「五月蝿い、この説教魔め。」
普段から口煩く注意をしているのが気に食わなかったからか、其の侵入者オロチは、外方を向き口を尖らせて反論した。
「…………閻魔の孫との隠れんぼだ。」

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